aki_hasama.html
ツナマヨに関する色々を纏めた製作関連情報をパクった秋歌ページ、関係者以外閲覧注意
よくみると小ネタがいっぱいいっぱい(ぁ
修正作業進行率:5%
最終更新日時:7月20日2:59
誤字修正箇所:大量すぎで数えれない(ぉ
--------------------------------------- ツナリオジャンプ --------------------------------------- 9月7日(木) 9月8日(金) 9月9日(土) 9月10日(日) 9月11日(月) 9月12日(火) 9月13日(水) 9月14日(木) 追加シナリオ --------------------------------------- コンセプトと超監督大雑把な流れ --------------------------------------- 説明下手なので情報に齟齬が発生するかもしれない。でも、聞いて。 自分と趣味が合わなかったり、考え方が合わないだけで「アイツは低脳、馬鹿な奴だ」って見下す人が多い事に、 そいつは違うぜベイベーって感じの話。冬樹の場合は周りと学力差があって勉強の話がまるで合わないみたいな。 要するにこんな感じかね 本の内容自体はイマイチらしいですが、 「現代人は自分の体面を保つために、周囲の見知らぬ他者の能力や実力を、いとも簡単に否定する。 世間の連中はつまらない奴らだ、とるに足らぬ奴らだという感覚を、いつのまにか自分の身に染み込ませているように思われる。 ……このように若者を中心として、現代人の多くが他者を否定したり軽視することで、無意識的に自分の価値や能力を保持したり、高めようとしている」 ってこんな感じの冬樹君を、中学校時代同じような体験をして、冬樹に励ましてもらった春菜が、 今までは恥ずかしいというか冬樹が誰ともしゃべろうとしないので何となくしゃべれなかったけど、 親の都合で転校する事になってヤバイ、うっそーん、って事になってやぶれかぶれで冬樹に声かける感じ。 (春菜が中学時代馴染めず孤立するのは、ダチがいなくなっちゃうのと私立受けようとした私が公立なんて、 みたいなアレだ、私立の人が公立の人みて「荒れてて嫌ねぇ」っていう感じ、学力差もあるし高校冬樹とほとんど同じ状況) 端的に言いますと某圭一君のKOOL状態を治そうと必死に頑張る某レナさんの話です(チョットマテ 最終的には物事は見方次第で面白くもつまらなくもなるんだよって感じのことを伝えたいんだけど・・・、 どうにも表現力不足な感が否めない。 軽くラブな話も入ってもいいと思うけどまぁ仲良しENDぐらいが一番いいんだろうね。 話的には平凡ではあるが、平凡でも内容次第では面白くもつまらなくもなるので頑張りましょう。 ごがつのそらも、内容は現実的だけど独自の味をもっているように。 --------------------------------------- キャラ設定 --------------------------------------- 遠山冬樹(とおやまふゆき) 高校2年生 理系 立ち絵無し? 無気力、無干渉。 人を見下すふし有り。 受け身がちだが、保身的。また悲観的。 中学時代は普通のキャラ。 中学受験をした訳でもない平々凡々なキャラだが、頭は良かった。 高校に入って回りの余りの学力の低さにだんだん性格が歪み、見下すように 篠川春菜(しのかわはるな) 高校2年生 理系 立ち絵有り(制服、私服、表情豊かに 冬樹と同じクラス。 干渉的、ポジティブ思考。 自分の内面や悩みは表に出さない。 リーダーよりはムードメイカー。 吹奏楽部に所属、トランペット担当。 中学時代いわゆる中学受験落ちで公立の中学に。 だが小学校の時の友達は皆受験に受かってしまい、孤立。 だが冬樹に励まされ元気を取り戻す。 天野義弘(あまのよしひろ) 2年生 理系 立ち絵有り(制服、私服、表情は少なめ 冬樹と同じクラス。 わりと冷静。 他人を差別しない。 室長。 少しオタクっぽいかも。 文化系人間、メガネ。 部活所属無し。 木村優子(きむらゆうこ) 2年生 理系 立ち絵有り(制服、私服、表情は普通>使う機会少ないかも 同クラス。 友人といるときは少し騒がしく、他人には普通。 一番普通な人。 冬樹にひそかに好意?>却下 さり気なくゲーマー。 筋肉(きんにく) 2年生 文系 ネタ担当。 脳みそ筋肉、勘違い多々。 その肉体で語れ!! 遠山両親 気難しい息子を持つ苦労人。 一般的な家族像で。 篠川両親 実はけっこうな家? 転勤は父の昇進で(仮 --------------------------------------- 設定・諸注意・備考・改善点など --------------------------------------- 現在のラフテキストは「サウンドノベル」(以下ノベル)ではなく「小説」。 ノベルの文章としては語りがやや遠まわし。そして語りが多いので台詞が要所要所で端的になりがち。 ハルヒ小説のキョン語り風が理想。 例:くだらない馴れ合いの学校なんかに通うはずがない→くだらない馴れ合いの学校なんかに通うはずがないからな・・・・・・。 冬樹の語りがネガティブ過ぎてプレイヤーにきつい。FF8のスコールを見ている感じ。 感情描写に威力(?)がない。もう少し感情描写をオーバーリアクションにすればプレイヤーを退屈させないかもしれない。 例:マッチョとテニス Nスクは4行22字。いわゆる一般的なノベルのウィンドウ形式。yesごがつのそら形式notひぐらし形式。 台詞の場合は一番上に【遠山冬樹】等の台詞しゃべってる人の名前入れるので3行22字。 このテキストはそうなっていないが、ぶっちゃけ時間ないので打ち込むときにやりますorz。 小説的表現法についても同様。だが私は小説的表現法に詳しくありませんタスケテクダサイ。 文化祭以降の執筆が未完了。下手に改変しすぎるとタイムパラドックスが発生する可能性アリ。 だがいい加減改変始めないと間に合わなくなるのでやむを得ず・・・。 なお変更箇所は原文に取り消し線(細かい修正は原文消してます)、変更後の文章は赤で追記してある。 誤字、脱字、些細な修正については取り消し線及び赤字無しで問答無用で書き換え。 輪廻氏の原文、又は私が修正した箇所を、ここはこうした方がいい、って場所があったら迷わず容赦なく教えてください。 選択肢増加は必須。ってかそうしないとエンディング分岐ができない。 ただ9月9日の分岐はイマイチ必要性がない気も・・・。 日付が変わる時は日付入りの画像表示。イメージは星空みたいな感じ。 --------------------------------------- メモ掻きをガリガリガリガリガリガリ --------------------------------------- >「ここまできて、まだ図書館に行こうとするのか。・・・・・・どんなフェチだ?」 >「いや、そうじゃねぇだろ・・・・・・。」 春菜台詞を春菜口調に→一応変更完了だけどイマイチかな、もう少し春菜口調がいいかも >頭ごなしに否定する 日本語変。「頭ごなしに」は「上からの目線で一方的に」。 頭ごなしに:相手の言い分を聞かず、最初からきめつけた態度をとること >相手の言い分を聞かず つまりは対人の時だけだよ。物事に対してはありえない。→改善案求む >ただ4時半には戻ってこないとな あんたら学校で作業するんじゃないのか。許可も取ったんじゃないのか。 →許可を取ったのに結局は荷物を置きに行っただけ。普通それだけなら買った物は家に置いて次の日に持ってきます。改善必須 「居場所」っていう言い方は物凄い違和感。 冬樹は確かに居場所が無い、って感じてるんだが、その弱いところを隠す為に他者を見下してくだらない奴といって拒絶してる訳で、 自ら居場所云々言うのは不適。 春菜が「居場所がなかったら私の所に来てよ」っていうのもいくらなんでもストレート過ぎ。 「やる事なかったら私の所手伝ってよ」ぐらいの方がいいかも。 「篠川さん」ってキャラじゃないよねやっぱり。 最初に冬樹が「篠川さん」って呼んだ時に、春菜が「篠川でいいよ」って言って以降は篠川で呼ぶべきかな。 ってか春菜のキャラ的に、いきなり豹変して「そーやって、いつも逃げてるんだね。冬樹君って・・・・・・。」 っていうよりは、むしろ半怒りぐらい(月姫の琥珀が志貴にお説教する感じの「志貴様それはダメですよー!」みたいなプリプリした(?)怒り方)で、 「あのねぇ!冬樹君はクラスの人たちを避けすぎなの!冬樹君が思ってるほど、皆悪い人じゃないんだよ?」 って、まぁこの文じゃ逆に違和感だけどまぁこんな感じの雰囲気って事で。KOOLよりHOTな感じ? 春菜のキャラでひぐらしレナ並の豹変っぷりはやはり妙。 いつもはアヘアヘしてる感じの人が、表情真剣になって怒ってるってのは十分にインパクトあると思う。 エンディングで、着いたら出発時間ギリギリである必要性はない。むしろ急いで行ったけど、多少出発時間には余裕があって、 「そんなに焦らなくても良かったのにー。」「冬樹君そんなに心配してくれたのかなー?なんか嬉しぃ〜。」「・・・ありがとね」ぐらいのノリがいいかな。 ってか時間に余裕がないと春菜の昔話する暇が無くなる。バッドはまぁ間に合わずに行っちゃうって感じでもいいけど、 ノーマルとハッピーは春菜の昔話inの方がいい。 日曜の選択肢「C.天野と一緒に」と「木村とペア」が無い ライブ・・・というか途中で吹く「既成曲」(not秋歌)。自作でもないフリー素材を「既成曲」という言い方は失礼な気もする。 HHのさり気なくハッピーエンドを混ぜ込んだイベントが前半の部分のニュースで死んでたので修正。 後半に「助かった」的なニュース流して冬樹の意見が前半の時と違い「変わった」的なことが強調できるように。 数字・漢数字はNスク時に全て数字に。 日曜イベントの為に土曜の手伝いを午後〜夕方にしたので土曜の午前を抜本的に変更する必要有り。 文化祭と学校祭の2表現が入り混じってます、何とかしてください(ぉ --------------------------------------- こんな描写欲しいかも --------------------------------------- 冬樹がだんだん変わるのは当然だが、周りの人達もだんだん変わってる感じを出す。 天野が日曜日の最後に「冬樹は暗いイメージがあったんだが別段そういう訳じゃないんだな」的な台詞を言って 月曜からやや話す機会が多くなるとか 上記の逆で、誰か(木村辺りが妥当?)が「冬樹君、何か変わったねー。前より明るくなったっていうかー」みたいな台詞 ゲーセンシーンでガンゲーのゲーム名。 何かのゲームのアナグラムで作りたい所。 ゲンゲーシーンで木村のゲーマーっぷり発揮。 冬樹も昔縁日の射的が得意でそれなりに自信があったが木村の圧倒的な強さに猛ツッコミ。 春菜中学時代の話→春菜はいわゆる中学受験落ちた組でダチと離れ離れで今の冬樹状態→冬樹が励ましてくれた(冬樹にその気はなかったが)→冬樹に感謝している の下りをエンディングに 欲しいかもってかこれは入れようZE 冬樹も中学の頃は普通の奴だった的な事をもう少し強調した方がいいかな、かな? --------------------------------------- Sniplusメンバーのご意見番。 --------------------------------------- いざりん 残念ながらありきたりですわ。 何故冬樹に固執したのかとか、面の表情に垣間見える陰は何か、とか。色々説明不足。 追加シナリオでタネ明かしとかやめて、一度で出し切ろう、ノベルにするなら。 ってか 性 格 不 安 定 す ぎ ま す が 。 ろりりん ハルりん 青の人 自分は小説とかはあんまり読まないので、正直小説としての良し悪しは判らない。 下手に修正しすぎて原型無くなるような状態になったら何時までたっても終わらないだろうし、大まか物語はこれで良いと思う。 後は誤字脱字、表現方法の修正ぐらいでいいような。それと、「・・・・・・」が多すぎる気がする。 雨の人 むーたん ボロクソに言いましたが基本的な流れはこれでOKです。(エンディングは流れも改変必要) まぁとはいえ若干流れを変えたり追加する必要の部分もありますが・・・・・・。 後は表現と台詞の追加・変更と、まぁ要するに上記のような事。 ちなみに誤字修正・漢字統一だけで物凄い時間掛かってます。流石に多すぎるワー煤i ̄□ ̄|||;;)!! 何か違和感・・・。私の初期の脳内妄想と展開が違うから?教訓が少ない?台詞が少ない? うーん・・・結果的に人が「面白い」と感じる作品ならいい訳ですが。 ってか地名少ないよね地名。学校名とか。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 本編 --------------------------------------- 9月7日(木) --------------------------------------- *** シーン1 背景:教室 *** だるい。 つまらない。 低レベルな授業ほどつまらないものなんてない。 俺はボーとしながら窓にうつる校庭を眺めていた。 窓側の列の一番後ろ。 俺の指定席。 窓からは九月半ば特有の湿気と嫌な残暑の光りが差す。 それがさらに俺にストレスを与える。 少々空腹にうずく腹をおさえてくだらない授業を聞き続けた。 「おい!!きいているのか!!遠山冬樹(とうやまふゆき)!!」 名前を呼ばれて前を見る。黒板に書かれた英文を見る。 どうやら文法の説明を始めるつもりだったらしい。 「きいてますよ…。…過去完了進行系の説明ですよね…?」 もちろん授業をきいてはいるが、聞き流しているにちかい。 黒板にかかれた英文を見れば、今体育会系の教師が過去完了進行系の説明をするくらいわかる。 「……きいているんならいいんだ………。」 英語の教師は情けない顔をして後ろを向く。 くだらない授業だが、こうやって教師の出鼻をくじくのは少しだけ面白い。 無駄な声を張り上げながら、心地の悪いBGMのような授業を聞き流していた。たるい。だるい。 つまらない。 *** シーン2 背景:屋上 *** 「ふぅ……」 昼休みは誰もこない屋上に俺はいる。 低レベルな会話しかしない教室に俺の居場所なんてない。 昨日のドラマ見た? とか このアイドルと付き合ってみたい。 とか よくそんな空想で会話がはずむよな。 理解が出来ない。 別に政治とか今後の日本の話をしろとかいうわけじゃない。 ただそんなメディアの話で盛り上がれるのが不思議なだけだ。 誰も来ない屋上も俺の指定席。 つまらない馴れ合いから外れる。 一種の現実逃避だ。 もう一年半、俺はこの逃げ場に通っていて、 もう一年半、くだらない、だるい低レベルな学校に通っている。 「失敗したな・・・・・・。ホントに・・・・・・」 *** シーン3(回想風) *** (場面:学校全体)第一印章は間違えた。やる気のなかった中学時代。 学校なんてどこも同じだろうなんて思って、学力レベルとかたいして調べずに決めた。 今思えば、本当に馬鹿な事をした。 3年間通う学校を、近いだけで選んじまうなんてな。 (場面:教室) 入学して、最初に愕然としたのは課題テストだった。 簡単過ぎる。 春休みに出された課題から出てくると書いてあったが、まさかこんな簡単だとは思わなかった。 俺はあっさりと学年でトップの順位をとった。 二位のやつは俺と五点ほどしか点数が変わらなかったが、三位とはたしか三十点以上離れていた。 それからは退屈な毎日だった。 初めのうちは授業を真面目に聞き、少しでも疑問を持ったことには教師に尋ねにいった。 だがそれも面倒になった。 いつからか、家庭学習だけで全て理解できるようになり、真面目に宿題をやれば簡単だった。 一度、担任から何故うちの学校に来た?ときかれたことがあったっけ……。 俺が正直に答えると担任はため息をついて、君なら県内のトップクラスの学校にも行けるだろうに、とぼやかれた。 今となってはそれは俺のぼやきだ。 それに高校に入学しても部活などもやる気がなかった。 中学時代は吹奏楽部でトランペットをやっていたが、入学式での演奏を聴いて下手過ぎて嫌になった。 学力が低レベルなら部活もこの程度か。 運動部はもとからやる気がなかったから俺は帰宅部になった。 運動音痴というわけじゃない。 運動は中の上ってところだ。 体育祭でリレーの選手に選ばれるか、選ばれないかの瀬戸際ぐらいだ。 こんな学校に馴れ合うつもりはなかった。 大した学力がある訳でもないのに、 昔は偏差値が高い学校だった、というだけで、今でも進学校だと胸を張る教師。 確かに、過去の学力の高さのお陰か、指定校推薦枠は多い。 だが、その推薦枠も年々減っているし、教師はそれを生徒の自主学習が足りないからだと決め付け、 授業内容を充実させようとする訳でもなく、闇雲に課題を増やす。 対する生徒は、その課題の量ゆえに、答えを写したり、やってこない奴も多い。 課題の量が多いから、それをこなすのに時間がかかる。 だが当然遊ぶ時間だって欲しいから、課題に時間を取られたら、自主学習なんてする奴はいないだろう。 結果的に課題は答え写すだけの作業、自主学習はしない、そりゃ学校全体の学力も落ちるさ。 生徒は先生のせいにして勉強せず、先生は生徒のせいにして課題を山ほどだす。 だが上っ面だけは進学校と名乗り、教師も生徒も一生懸命やっているフリをする。 見事な悪循環だ。 まぁそうは言っても、その遊ぶ時間を削って勉強しようという奴がこの学校には少なすぎる。 そんな学校だから俺が簡単に学年1位が取れるんだけどな。 勉強できないって言ってる奴に限って、勉強してないものだ。 せめてテスト前日に一夜漬けするだけでも、結果はかなり変わるだろうに。 そういう奴らとつるむのが一番嫌だった。 話しかけることはなかったし、話し掛けられても適当にあしらった。 奴らは頭がいいからって調子に乗ってるとかほざいてるが、調子に乗ってなんかいない。 ただ勉強してないくせに文句だけ言ってるような奴らと同等に思われたくないだけだ。 親は別になにも言ってこない。 好きだったトランペットを止めても、 部活に入らなくても、 友人を作らなくても。 もともと俺に感心がない。 そんな親だ。 全てが上手く回らない。 全てがつまらない。 まさに後悔、先に立たずだ。 もしわかっていたらこんなつまらない、くだらない馴れ合いの学校なんかに通うはずがないからな・・・・・・。 *** シーン4 背景:屋上 *** 「………。」 いつものコンビニで買った菓子パンを食べ、学校にある自販機で買ったジュースを飲む。 屋上から見る他の教室はどこも賑やかだな。 学校祭がもうあと四日に迫っている。 昼休みにもラストスパートをかけているらしい。 まぁ。 俺には関係ないことだ。 *** シーン5 背景:教室 (SE 「じゃあ看板係りは残って、他に作業のない人は解散!あっ、あと暇な人は手伝いよろしくな〜。」 室長がそう号令をかけると教室は騒がしくなった。 そんな奴らを無視して俺は教室を出る。 ガラガラガラ(SE カツカツ(歩く音SE 「あれ?遠山、帰るのか?」 さっき喋っていた室長が話し掛けてきた。 「帰る。」 「遠山って帰宅部だよねな?…手伝いやっていかないのか?」 馴れ馴れしく俺を呼ぶな。 「面倒臭い。」 室長の呼び掛けを振り切って俺は帰ることにした。 校舎を過ぎると音楽室からは不出来な、まぁ聴くだけなら損はしないトランペットの音が聞こえてきた。 とても上手いとは言えないが、この吹き方に聞き覚えがある気がした。 *** シーン6 背景:家 *** 『昨日未明、××市××町にてトラックの居眠り運転による、事故がありました。被害者の男女二人は、今も意識不明の重体で……』 テレビからは昨日に起こったらしい事故のニュースが流れている。 司会者と解説者が事故について話している。 話しによると、男女二人のカップルが、轢かれそうになった彼女を助けようと彼氏が飛び出したそうだ。 しかし二人とも轢かれ、不運なことに両者とも意識不明の重体・・・・・・。 なんともつまらない話だ。 トラックなどに轢かれたらひとたまりもないくらいわかるはずだ。 助ける暇があったら逃げればよかったのに。 ドラマなら二人ともギリギリで轢かれずに済んでいただろうが、 残念ながら現実なんてこんなもんだ。 不愉快なニュースをこれ以上見たくないからテレビを消した。 俺は自室に戻ると着替え、明日の予習と参考書を開いた。 今週は文化祭準備の為に、課題は少ないし、その課題も学校で終わらせた。 塾も面倒臭いから行っていない。 どうせ三年になったら塾に行く羽目になるんだから今はいい。 親は仕事で毎日遅く帰ってくる。 中学時代からのことだし、もう慣れた事だ。 兄弟もいないし、自分で食事を作ることもある。 俺は財布を持って近所のスーパーに向かうことにした。 *** ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 9月8日(金) --------------------------------------- *** シーン7 背景:教室 *** 翌日。 「………ふぁ」 遅刻ぎりぎりになって教室に入る。 俺以外の生徒はほとんど教室に集まっていた。 辺りを眺めているとどうやら朝早くから集まって学校祭の準備をしていたらしい。 ご苦労様。 誰にも挨拶などせず、もちろん誰も挨拶などしてこず、また昨日と同じような会話をしている。 俺はいつもの席に座ってまたわかりきった授業を聞き流していた。 *** シーン8 背景:教室 *** 窓の外からはいつも見慣れた校庭が見える。 空は晴天とは言えないが、まぁ明るい。 四限目となって担任がいろいろと学校祭について話している。 「それじゃあ以上だ。…そうだ、ついでにテストの結果を返すぞ…!」 うぇーとか悲鳴じみたものが上がる。 どうせわかりきった順位。 返された個票には『学年順位・1』と書いてある。 教科別に見ても…… 「!?」 政治経済だけが学年二位になっている。 つまり俺より点数のいいやつがいた。 ということだ。 点数は98点。 一問二点だから一位のやつは満点。 100点。 「……ったねぇ〜!政経学年トップだね〜!!」 はしゃぐ声が聞こえて思わずそっちを見てしまう。 そこには個票を見せあう女子が二人。 叫んだのはもう片方の個票を見てるんだから…… あいつか……。 「でも他は全部二位だね……。残念、春菜。」 「今回は自信あったんだけどなぁ……」 髪を片側で縛った女子。 同じクラスの奴で名前はたしか……。 :選択肢: A:春菜=シュワルツネッガー B:篠川春菜 C:デストロイヤー春菜 :ACの場合: いや、そんな名前あるはずない……。 たしか、彼女は篠川春菜(しのかわはるな)だ。 共通ルートへ :Bの場合: 篠川春菜(しのかわはるか)だ。 一瞬悩んだが、思い出した。 :共通ルート: *** シーン9 背景:屋上 *** 「………。」 昼飯を食べ終わって一息つく。 五十分ある昼放課。 ケータイを開いて時間を見るとまだ三十分くらいある。 予鈴を除くから、あと二十五分ほどか……。 「暇……。」 砂埃が舞う。 この砂埃が弁当に入るとかいう理由で屋上にくるやつはほとんどいない。 実際は入口横の壁にもたれ掛かれば砂などはほとんど来ず、安心して食事ができる。 「ふぅ……。」 一息つく。 暇な時間、手元にある参考書を読む。 午後の授業は数学と物理。 授業に大して参加してなくても指される。 答えられるようにしておかないとな。 「………。」 ガチャガチャ(SEドアノブ 「?」 誰か来たのか? 左隣りにあるドアががたがたと揺れる。 どうする……? :選択肢: A:隠れる。 B:そのまま。 C:場所を変える。 :Aを選択: 隠れよう。 クラスのやつは俺がここにいることは知っているだろう。 しかしなにか厄介事に巻き込まれたら面倒この上ない。 とりあえずは入口の反対側に回ろう。 「………。」 なぜか息を潜めて待つ。 するとさっき聞いたような声がした。 「あれ?…遠山君いない……?」 篠川だ。 俺に何か用でもあるのか? まぁ彼女なら見つかっても何もなさそうだ。 他の奴らと付き合っているのは釈だが、奴らと違って彼女は頭がキレる。 見つかるまではここに座っていよう。 俺は風あたりの強い、入口の反対側に座っていた。 「……あっ!…遠山君!!」 俺を見つけた篠川が俺を呼んだ。 だが、俺は無視をして参考書に集中した。 「……えっと、……遠山君?」 「なに?」 俺が不機嫌そうに返すと彼女は困ったような顔をした。 「えっとね……、遠山君に聞きたいことがあって……。」 俺は立ち上がるとまた入口方面に歩く。 そして外枠のフェンスにある段差に座った。 篠川もすこし距離を置いて隣に座った。 「話しって?」 俺は尋ねた。 共通ルートへ :Bを選択: ガチャ(SEドアが開く音 「……遠山君?」 開かれたドアからはさっきの篠川が出てきた。 彼女の反応は驚きというよりもむしろ確認の意味があったようだ。 名前を呼ばれたが無視。 俺は参考書に集中した。 「遠山君……?いいかな?」 「何か用?」 不機嫌そうに返すと彼女は困ったような顔をした。 別に不機嫌じゃないが、話したいわけでもない。 「えっとね……、話したいことがあるんだけどいいかな?」 俺は立ち上がるとまた入口方面に歩く。 そして外枠のフェンスにある段差に座った。 篠川もすこし距離を置いて隣に座った。 「話しって?」 俺は尋ねた。 共通ルートへ :Cを選択: とりあえず、入口近くは嫌だから、外枠のフェンスのあるところに移動した。 ここなら少し段差があり、座るにはもってこいだ。 無風に近い入口傍とは違って若干風があるが、気になるほどでもない。 斜めに見える入口がゆっくりと開いた。 「あっ……!…遠山君……。」 俺の姿に気がついたらしい。 出てきたのは篠川だった。 俺の名前を読んだのは驚きより確認じみた気がした。 俺はとりあえず無視をした。 用があるならまた呼ぶだろうし、違うなら帰るなり行動するだろう。 「……えっと……、遠山君。……ちょっと話したいことがあるんだけど……」 どうやら前者みたいだったようだ。 参考書を読む俺の前に篠川は立っていた。 「なに?」 俺は不機嫌そうに返した。 篠川はすこし距離を置いて隣に座ると話し出した。 :共通ルート: *** シーン1 背景:屋上 *** 「遠山君は学校祭は楽しみじゃないの?」 話したいってそんなことか……。 「別に」 正直に答える。 別に楽しみなんかない。 去年だって与えられた仕事をこなしただけで、フリータイムは涼しい図書室で宿題をやっていたな。 学校祭の日に図書室に来る奴なんていないし、監督の教師もずっと座って本をよんでいるだけだった。 「なんで?」 ……うるさいな。 なぜ答える必要がある。 黙っていると彼女は気まずそうに、ごめん、と呟いた。 「遠山君って、もしかしてクラス企画もわからなかったりする?」 馬鹿にしているのか? 「クラス企画はお化け屋敷だろ?」 俺は彼女の尋問みたいな話を聞きながら、視線は手に広げた参考書に向かっていた。 「じゃあ自分は何を担当するか知ってる?」 「お化け役B。コース中盤に急に飛び出す。台詞無し。」 そう答えてやると彼女は、少し驚いたようだった。 どうやら俺が知らないと思っていたらしい。 役は成り行きというか、役割分担のときにどれでもいいと言ったらこんな役になった。 約1時間もあるし、暗く締め切った部屋で薄汚い布を羽織ってやるのは不快だが、どれでもいいって言ったのは自分だしな……。 「う、うん!わかってるならいいかな……」 空元気だな。 視線を反らしてそう漏らす。 「……話はそれだけか?」 俺はケータイを取り出して時間を見た。 昼休みはあと15分。 つまり10分ほど話していたらしい。 「うわっ……。待ち受けナニ……。」 俺のケータイを覗き込んだ彼女は引いた。 「英字新聞だ。」 ずらりと並ぶ英語の文。 昔からこの待ち受け画面を使っている。 別に気に入っているわけじゃないが、変えるのも面倒臭く、今に至る。 「……。私は……、こんなの使ってるよ。」 ケータイを取り出して見せてきた。 横目で見てみる。 歌手の写真に歌の歌詞らしい字がカラフルにそして読みにくい字で書かれている。 「このレッドソウルの歌って凄くいいんだよね〜!なんていうか心に響くっていうか〜。魂が燃え上がるっていうか〜。」 勝手に話している。 英語でいえばスピーク(speak)。 決してトーク(talk)ではない。 無視して参考書に集中する。 「……聞いてる?」 「いや」 どうやら話し掛けていたつもりらしい。 会話はお互いが共通の利害があって初めて成立する。 今のは向こうが一方的に語っていただけだ。 会話じゃない。 「あのさ……。ちょっと真面目な話をしていいかな?」 少し静かな表情になる。 穏やかに、湿気を纏った初秋の風が流れる。 「昨日さ、高校生二人が事故に遭って意識不明の重体……っていうニュース知ってる?」 あぁ……。 あれか。 昨日テレビでやっていたな。 彼氏が彼女を助けようとして結局は二人とも意識不明になったってやつ。 見てて馬鹿らしくなったから詳しくは知らない。 「少しは……。」 俺がそう答えると、篠川は少し俯いた。 *** シーン2 背景:屋上 *** 「そのニュースを見てね……。私、すごいなァって思ったの。 いくら自分の彼女でもさ、咄嗟に助けようなんて思えないと思う。 こんなこと不謹慎かもしれないけど、彼女のほうも嬉しかったんじゃないかな?」 嬉しい? どこがだ。 もし彼氏のほうだけが死んだら彼女のほうは絶望するだろうな。 「……遠山君はどう思う?」 「いや、なんとも……。」 *** シーン3 背景:教室 *** 教室に戻ると相変わらずのうるささだった。 俺は席につくとまた参考書を読むことにした。 ガラガラガラガラ(SE 「お〜し。始めるぞ〜。」 教師が入ってくると奴らは席に移動する。 読んでいた参考書を鞄にしまい、今から始まる授業に集中する。 わけもない。 また外を眺めていようか。 視線を窓に向けると硝子には薄く教室が反射する。 そのとき、反射ごしに目が合った。 篠川だった。 俺は何事も無かったかのように自然な動作で視線を反らした。 *** シーン4 背景:教室 *** チャイム(SE 室長が昨日と同じ台詞を吐く。 学校祭の準備なんて面倒だ。 明日は土曜日。 クラスの連中は集まって準備をしようと言っている。 ……帰ろう。 馴れ合いなんて好きじゃない。 ガラガラ(SE 「あれ?遠山君?」 教室を出たところで篠川と出くわした。 手には黒革の鞄。 「……トランペットか?」 見覚えのある。 懐かしい入れ物。 「うん!……学校祭で披露するからね!今から遠山君に聴いてもらおうかなァ〜って思って……。」 なんで俺なんだ? 不思議な顔をすると…… 「……もしかして、……覚えてない?」 眉をひそめた篠川が見つめてきた。 「……なにが?」 すると彼女は打ちのめされたような顔をした。 ショック。 と、顔に書いてある。 「ほらほら!!篠川春菜!! 中学一緒!! 吹奏楽部!!」 「あっ……。そうだったな……。」 すっかり忘れていた。 たしか篠川は同じ中学だったんだ。 吹奏楽部でも一緒だった。 ただ生徒数が千人ちかい中学に、部員30名を超える部活だったからな。 たいして覚えてなかった。 「遠山君、トランペットが上手だったよね?……ちょっと教えてもらいたいなァ〜。なんて……」 照れ笑いのような篠川。 正直面倒だが、聴くだけならまぁいいか。 「……いいよ。」 「本当!?……じゃあ屋上で待ってるね〜!」 何故屋上? ここで吹けばよいものを……。 断ればよかったか。 篠川は走りながら屋上を目指していった。 「……めんど。」 仕方ないが、行くか。 *** シーン5 背景:屋上 *** 「遅いッ!!」 怒る篠川。 きてやっただけ感謝しろ。 とりあえず無視に決め込む。 「いい?冬樹君?」 「ちょっと待て。なんで遠山君から冬樹君になった?」 「だって遠山君なんて他人行儀な言い方は言いにくいもん」 「……いや、他人だろ。」 いちいちツッコミに疲れる相手だ。 「……冬樹君でいい? 私のことは『春菜様』って呼んでいいからさァ〜。」 なんで様付けなんだよ。 とりあえず無視。 「ノリ悪いな〜。」 ノリが良すぎるのもどうかと思うが……。 「さっさと吹けよ。」 「あぅ!?……ごめん!」 篠川は鞄からトランペットを出す。 真鍮製のトランペットは太陽に照らされて金色に輝く。 それは幻想的だった。少し茶色い篠川の髪も、黄金に輝いているようで、普段は少し茶色い程度だった篠川の髪も黄金に輝いているようで、 その情景は一枚の絵画のようになって、俺の視界に入ってくる。 (秋歌独奏) (ここに金曜の帰りの回想) トランペットの音は、いつか聴いた、少しマシな音だった。 上手とは言えないが、透き通るような繊細さがある。 楽譜通りに演奏している、機械のような音とはまるで違う。 彼女自身が作る、彼女の歌。 そんな気がした。 プピィ!(SE? ……たまに音を外さなければ。 「……ふぅ。……どうだった?」 吹き終えた篠川は少し赤らめながら俺を見た。 フェンスごしの段差に座る俺を。 「指運びはまあまあだな。……たまに外す音がなければいいんじゃないか?」 もちろん、まだ直すところはあるだろう。 でもそれが彼女らしさを潰してしまうかもしれない。 今の曲は聴いたことがないが、演奏を聴くかぎりは問題ない。 「う〜ん……。曲の感想とかはあるかな?冬樹君……。」 曲の感想……か。 「……どうだろうな。……少し、もの悲しい気がした。」 バラードにちかい、そんな印象だ。 この情景がさらにそれを引き立てたんだろう。 「……もの悲しい。……たしかにそうかもね。」 篠川は一瞬、泣いたような顔をした気がした。 「この曲は私が作ったんだ。学校祭で吹奏楽部のみんなと演奏するんだよ。」楽しそうな話題なのに、篠川は明るい口調じゃなかった。 いや、口調だけなら明るい。 表情も明るかった。 だが、伝わる雰囲気は冷たかった。楽しげな話題なのに、篠川は明るくなかった。 いや、口調は十分朗らかだ。そして表情も。 だが、伝わってくる雰囲気は冷たかった。 「……さぁ!!春菜リサイタルはここまで!!ご清聴ありがとォ〜ございましたァ〜!」 普段の調子になる。 もう冷たい雰囲気は伝わってこない。 「ほら!冬樹君!! 行こうよ!!」 「あ、あぁ……。」 なんだったんだ? 疑問があるが、気にしても仕方がなかった。 篠川に急かされて、教室に戻ることにした。 *** シーン6 背景:教室 *** 教室は学校祭の準備で机などが片付けられていた。 クラス企画「お化け屋敷」の看板作りをしていた。 篠川に急かされて教室にきたが、別にすることもない。 教室に入ってきた俺に、数人は驚いていたようだが、すぐに作業に戻った。 俺は踵を反した。 長居は無用。 帰ろう。 「……冬樹君!」 篠川に呼ばれた気がした。 無視して、帰る。 *** シーン7 背景:家 *** 新聞を広げる。 そんなに話題性が無いのか、例の交通事故は小さく掲載されていた。 『こんなこと不謹慎かもしれないけど、彼女のほうも嬉しかったんじゃないかな?』 篠川の言葉が甦る。 嬉しかった? そんなわけない。 一通り読んで、新聞を畳む。 普段より30分ほど帰るのが、遅くなってしまった。 やることもなく、することもない。 部屋に戻ろう。 プルルル…(SE 電話が鳴る。 ガチャ(SE 「もしもし、遠山ですが……」 電話から聞こえる声はさっき聞いた声だった。 「あっ!冬樹君?……私、篠川春菜だけど……。」 「篠川さんか……。なんか用?」 篠川は少し間をおいた後に話し出した。 話しというよりは連絡。 帰り際に聞いた、明日の朝、学校で準備するという話だ。 「……ってことなんで、用事がなかったらきてね〜。」 「断る。」 「えぇ!?速攻!!?……なにか用があったり?……ま、まさかデー……。」 「面倒くさいから。」 「わがままだなァ〜。そんなことじゃあ学校祭は楽しめませんよ冬樹さぁ〜ん。」 なんだこの言い草は……。 馬鹿にしているのか? 「切るぞ。」 「え!?ちょっと待……。」 ガチャ(SE 強制終了。 くだらない馴れ合いなんて好きじゃないんだ。 篠川に絡まれてから、どうも奴のペースに巻き込まれがちだ。 正直、嫌じゃない。 面倒臭いし、調子狂うが、中学を思い出す。 自分自身、変わったなと思う。 だがそれがどうした? 今更……。 *** ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 9月9日(土) --------------------------------------- *** シーン1 時期:9月第二週土曜日 背景:家、部屋など・・・・・・ *** ジリリリリ(目覚まし音SE 「・・・・・・朝・・・・か。」 いつもの時間に目覚ましがなる。 中学時代から染み付いた習慣で、休日だろうが平日だろうが7時には目が覚める。 うるさく部屋に鳴り響く目覚し時計を止め、緩んだ体を伸ばす。 「・・・・・・ふぅ。」 伸ばした腕を下ろすと、ベットから降りてカーテンを開ける。 まぶしい光に目を刺激され、反射的に目を隠す。 住宅街にも聞こえる鳥のさえずり。 聞き飽きた、でも新鮮な感じのする音。 「・・・・・・冬樹〜?起きた?」 一階から母が呼んでいる。 軽く返事をして、着替えを始める。 (ウエイト (SE階段を下りる音 リビングに入ると、母はテーブルに朝食のパンなどを運んでいて、父はスーツ姿でソファーに座りながら新聞を読んでいた。 「おはよう。」 朝の決り文句を言って、椅子に座る。 父は返事もせずに新聞に没頭し、母は無言で食事を運ぶ。 「・・・・・・・・・・・・。」 テーブルに有るのは、いたって平凡な食パンに、いちごジャムが入ったビン、葉野菜にスクランブルエッグというものだった。 もちろん飲み物は、牛乳だ。 「いただきます。」 無言の朝食。 ひとりでの朝食。 いつものことだ。 唯一違うとすれば、休日なのに父がスーツ姿・・・・・・だというぐらいだ。 休日出勤なのだろう。 別に気になどならない。 父がどこに勤めているかぐらいは知っているが、役職や仕事内容まで知らない。 「・・・・・・できましたよ。」 母がそういうと父は無言で立ち上がり、テーブルに向かう。 俺は食事を済ませ、父と入れ違いの形で席を立つ。 壁にかけてある時計を見ると、時刻は7時半になろうとしていた。 *** シーン7 背景:家 *** 部屋に戻る。 土曜日の朝にやることなどなく、ベットの上でごろごろとしていた。勉強などはする気もない。 夏休み明けの課題テストは終わったし、日々の課題などは全て学校で終わらせている。「・・・・・・暇だ。」 あたりを見回しても、俺の部屋に気のきいた娯楽道具なんて物はない。 どうしようか・・・・・・ *選択肢 B・図書館に行く。 C・散歩に行く。 図書館へ行く *** シーン1 背景:家 *** 現在時刻は7時45分。 図書館が開くのは、8時半だからあと45分ほどある。 仕方ない。 空いた時間は、勉強でもやるか。 立てかけてある本棚から、数学の参考書を出す。 ぱらぱらとめくって、今学校でやっている範囲を出す。 この参考書は、県内でもトップクラスの学校も採用しているやつで、もちろん学力が並程度しかないうちの学校では採用などしていない。 中身の内容は、端的にポイントを攻めてくるものから、まわりくどいやり方で出題してくるものもある。 レベル別に分かれており、1,2程度ならどの学校の生徒でも、まじめにやり方さえ理解していれば解ける問題であろう。 レベル3はいわゆる応用問題で、大義は同じだが、やり方をややこしく、より複雑にしている。 だが基礎と、柔軟な頭さえ持っていればそれほど苦戦はしないだろう。 しかしレベル4はそれさえも凌駕する。 大学入試レベルといったところか。 これにはさすがに苦戦する。 自力で解ける問題もあれば、解説や解答を見ないと分からない問題も多々ある。 レベル3までは全て自力で解いてあるため、今更復習する必要もない。 自力では解けなかったレベル4の問題を解く。 「・・・・・・と、これはシグマを用いて・・・・・・。」 *** シーン2 背景:家、自宅前など *** 「・・・・・・もうこんな時間か。」 時計はすでに8時半を過ぎていた。 参考書にはたった3問の解答が記されている。 1問をこなすのに15分もかかっていた。 「さて・・・・・・図書館に行くかな。」 先ほどまで解いていた参考書に加えてそのほかの教科の参考書なども鞄に入れておく。 図書館に行っても読みたい本などは特にないが、探し回ってみれば少しくらい興味を引く本くらいはあるだろう。 なければ参考書などでも解いていればいい。 クーラーのないこの部屋よりはずいぶんと集中できるはずだ。 持ち物を一度確認し、玄関に向かう。 靴紐を縛り、扉を開ける。 「あれ?・・・・・・冬樹君?」 なんという偶然。 目の前には篠川がいた。 「な・・・・・・、なんで篠川さんが?」 お互いびっくりしたように、そのままの動作で立ち止まる。 無言で見詰め合ったまま、しばらく固まったまま。 「わ、私は学校に行く途中だけど・・・・・・。」 そうか。 考えてみれば家と学校は、かなり近い。 篠川は同じ中学だから、家の前のとおりをとおっても何の不思議もない。 篠川は私服だったが、持っている鞄は明らかに学生鞄だ。 どうやら昨日聞いた『徴集』に行くようだ。 手には鞄にほかにトランペットのケースも持っていた。 「冬樹君は行かないの?」 俺は・・・・・・ D・図書館に行く。 E・学校へ行く。 *** D・図書館に行く。 *** シーン3 背景:自宅前 *** 「俺は今から図書館に行くところ。」 もともとの予定を崩すわけにも行かず、図書館に行くと答えた。 篠川は寂しそうな顔をした。 「図書館で・・・・・・、大事な用事?」 「いや、暇つぶし。」 「・・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・。」 いやな間が起きる。 お互い黙ったまま立ち尽くしている。 俺としては早く図書館に行きたいのだが、目の前に立っている篠川を押しのけていくのもさすがに気が引ける。 「・・・・・・いっしょに行かない?」 「はぁ?」 「だからさ、学校に行かない?」 「いや・・・・・・だから俺は図書館に・・・・・・」 ガシッ と腕をつかまれる。 ・・・・・・意外と握力は強いようだ。 振りほどけない。 「男がガタガタ言わない!!ほら、行くよ!!」 「え?・・・・・・ちょ、まっ・・・・・・。」 抵抗空しく、走る篠川に連行される俺。 「ほらほら!!行くよ〜!!」 「いや、だからって学校は目の前だから走る必要は・・・・・・。」 ゴツ(殴るSE 「男がごちゃごちゃ言うなァ〜!!うぉぉぉおおおおお!!!」 あ〜。 とうとう変な叫び声まで出しながら走ってるよ・・・・・・。 叫ぶころには、すでに学校の前についていて、そのままの勢いで昇降口に突入。 「・・・・・・はぁはぁ。やっと着いた・・・・・・。」 いや。 俺ん家から1分ほどしか経ってないぞ。 なかば引きずられるようにきたからほとんど疲労していない。 「じゃ、俺は行くから。」 きびすを返す。 どうせきたってやることなんてないんだ。 一度家に帰ろう。 「待てィ。」 襟首をつかまれる。 「ここまできて、まだ図書館に行こうとするのかっ。・・・・・・どんなフェチだ〜?」 「いや、そうじゃねぇだろ・・・・・・。」 たしかにどんなフェチだよ。 「・・・・・・どうせ、俺がいったってやることもないだろ。クラスの連中もわかってるだろ。」 その一言を言った瞬間、篠川の顔はまるで張り付いた仮面のように、無表情になった。 屋上でトランペットの演奏を聞いたときのような、あの冷たさも感じる。 「・・・・・・へぇ。」 第一声。 納得の声。 「そーやって、いつも逃げてるんだね。冬樹君って・・・・・・。」 第二声。 罵倒。 「つまんなくない?」 「え?」 「なんでもかんでも確かめもしないで、頭ごなしに否定するなんてさァ・・・・・・。」 篠川は顔を俺に近づけてきた。 その顔は、教師が生徒をしかるように、あからさまに不機嫌な表情だった。 「そんなことね。確かめてみないと分からないんだよ?冬樹君の言うとおりみんな避けてるのかもしれない。でも、実はみんな、冬樹君と話したがってるのかもしれない。それを確かめないで一人で勝手にみんなの気持ちを決め込んで、自分だけ特別だと思って・・・・・・。そんなことして楽しい?」 怒ってるのか、悲しんでるのか、とにかく今の篠川は泣きそうな顔をしていた。 説き伏せるように俺に怒っていても、どこかその言葉は別のところに向けられているみたいで・・・・・・。 「・・・・・・・・・・・・。」 正論だった。 でもそれを肯定できるほど、俺は強くない。 篠川が言うとおり、逃げているだけだ。 今更言われなくても・・・・・・ わかっている。 俺が屋上に逃げ出すようになったころから、自分が逃げていたことくらい。 「行こ。」 篠川が手を取る。 やさしい笑顔だった。 あの冷たい雰囲気も、 あの怒ったような、悲しいような顔もない。 トランペットの演奏のときもそうだった。 冷たかったあとにはこの笑顔が出てきた。 「居場所がなかったら、私たちの班を手伝ってよね。結構、遅れ気味で学校祭に間に合うかどうか微妙なんだよね☆」 篠川に手を引かれたまま、教室の前に着いた。 中は、騒がしかった。 共通ルートへ *** シーン1 背景:家 *** 「散歩でもするか・・・・・・。」 散歩でそう時間がつぶせるとは思えないが、適当にふらふらして目ぼしい店があったら入ったりして時間をつぶそう。 財布を持ち出して、玄関に向かい、 靴紐を縛り、扉を開ける。 「あれ?・・・・・・冬樹君?」 なんという偶然。 目の前には篠川がいた。 「な・・・・・・、なんで篠川さんが?」 お互いびっくっりしたように、そのままの動作で立ち止まる。 無言で見詰め合ったまま、しばらく固まったまま。 「わ、私は学校に行く途中だけど・・・・・・。」 そうか。 考えてみれば家と学校は、かなり近い。 篠川は同じ中学だから、家の前のとおりをとおっても何の不思議もない。 篠川は私服だったが、持っている鞄は明らかに学生鞄だ。 どうやら昨日聞いた『徴集』に行くようだ。 手には鞄にほかにトランペットのケースも持っていた。 「冬樹君は行かないの?」 俺は・・・・・・ *選択肢 ・散歩に行く。 ・学校へ行く。 *** D・散歩に行く。 *** シーン3 背景:自宅前 *** 「俺は今から散歩でもするところ。」 もともとの予定を崩すわけにも行かず、図書館に行くと答えた。 篠川は寂しそうな顔をした。 「学校に行かずに・・・・・・、散歩?」 「ああ。」 「・・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・。」 いやな間が起きる。 お互い黙ったまま立ち尽くしている。 俺としては早く図書館に行きたいのだが、目の前に立っている篠川を押しのけていくのもさすがに気が引ける。 「・・・・・・いっしょに行かない?」 「はぁ?」 「だからさ、学校に行かない?」 「いや・・・・・・だから俺は散歩に・・・・・・」 ガシッ と腕をつかまれる。 ・・・・・・意外と握力は強いようだ。 振りほどけない。 「男がガタガタ言わない!!ほら、行くよ!!」 「え?・・・・・・ちょ、まっ・・・・・・。」 抵抗空しく、走る篠川に連行される俺。 「ほらほら!!行くよ〜!!」 「いや、だからって学校は目の前だから走る必要は・・・・・・。」 ゴツ(殴るSE 「男がごちゃごちゃ言うなァ〜!!うぉぉぉおおおおお!!!」 あ〜。 とうとう変な叫び声まで出しながら走ってるよ・・・・・・。 叫ぶころには、すでに学校の前についていて、そのままの勢いで昇降口に突入。 「・・・・・・はぁはぁ。やっと着いた・・・・・・。」 いや。 俺ん家から1分ほどしか経ってないぞ。 なかば引きずられるようにきたからほとんど疲労していない。 「じゃ、俺は行くから。」 きびすを返す。 どうせきたってやることなんてないんだ。 一度家に帰ろう。 「待てィ。」 襟首をつかまれる。 「ここまできて、まだ散歩に行こうとするのかっ。・・・・・・どんなフェチだ〜?」 「いや、そうじゃねぇだろ・・・・・・。」 たしかにどんなフェチだよ。 「・・・・・・どうせ、俺がいったってやることもないだろ。クラスの連中もわかってるだろ。」 その一言を言った瞬間、篠川の顔はまるで張り付いた仮面のように、無表情になった。 屋上でトランペットの演奏を聞いたときのような、あの冷たさも感じる。 「・・・・・・へぇ。」 第一声。 納得の声。 「そーやって、いつも逃げてるんだね。冬樹君って・・・・・・。」 第二声。 罵倒。 「つまんなくない?」 「え?」 「なんでもかんでも確かめもしないで、頭ごなしに否定するなんてさァ・・・・・・。」 篠川は顔を俺に近づけてきた。 その顔は、教師が生徒をしかるように、あからさまな不機嫌な表情だった。 「そんなことね。確かめてみないと分からないんだよ?実はみんな、冬樹君と話したがってるのかもしれない。冬樹君の言うとおりみんなさけてるかもしれない。でも、それを確かめないで一人で勝手にみんなの気持ちを決め込んで、自分だけ特別だと思って・・・・・・。そんなことして楽しい?」 怒ってるのか、悲しんでるのか、とにかく今の篠川は泣きそうな顔をしていた。 説き伏せるように俺に怒っていても、どこかその言葉は別のところに向けられているみたいで・・・・・・。 「・・・・・・・・・・・・。」 正論だった。 でもそれを肯定できるほど、俺は強くない。 篠川が言うとおり、逃げているだけだ。 今更言われなくても・・・・・・ わかっている。 俺が屋上に逃げ出すようになったころから、自分が逃げていたことくらい。 「行こ。」 篠川が手を取る。 やさしい笑顔だった。 あの冷たい雰囲気も、 あの怒ったような、悲しいような顔もない。 トランペットの演奏のときもそうだった。 冷たかったあとにはこの笑顔が出てきた。 「居場所がなかったら、私たちの班を手伝ってよね。結構、遅れ気味で学校祭に間に合うかどうか微妙なんだよね☆」 篠川に手を引かれたまま、教室の前に着いた。 中は、騒がしかった。 共通ルートへ *** シーン1 背景:自宅前 *** 「学校に行こうかなって・・・・・・。」 そんな嘘をついてみる。 俺は別の事をする気、満まんだったのだが・・・・・・。 「・・・・・・ホント?」 なぜか疑り深い篠川。 顔を近づけて俺の瞳を覗いてくる。 「ほかに用事があったみたいだね。学校に行くんだったら冬樹君みたいな人が、私服で学校に行くとは思えないな。」 「!」 意外と鋭い。 が 「篠川さんだって私服だよな・・・・・・。」 「私は別に気にしてないし、こういう日は結構みんな私服できたりするしね。」 「そうなんだ。」 一枚上手から篠川が攻める。 こういう事情は俺も知らなかったからな。 仕方ない。 「冬樹君!早く行こ!」 篠川は俺の手を・・・・・・いや腕をつかんで走り出す。 「ほらほら!!行くよ〜!!」 「いや、だからって学校は目の前だから走る必要は・・・・・・。」 ゴツ(殴るSE 「男がごちゃごちゃ言うなァ〜!!うぉぉぉおおおおお!!!」 あ〜。 とうとう変な叫び声まで出しながら走ってるよ・・・・・・。 叫ぶころには、すでに学校の前についていて、そのままの勢いで昇降口に突入。 「・・・・・・はぁはぁ。やっと着いた・・・・・・。」 いや。 俺ん家から1分ほどしか経ってないぞ。 半ば引きずられるようにきたからほとんど疲労していない。 昇降口から見える校舎内は学校祭の準備をしているクラスもあり、休日とは思えないほどにぎやかだった。 わかる。 ここに俺の居場所はない。 やっぱ帰ろう。 つまらない気分になる前に帰ろう。 「わりぃ。帰るわ、俺。」 きびすを返す。 どうせきたってやることなんてないんだ。 家に帰ろう。 「待てィ。」 襟首をつかまれる。 「ここまできて、帰ろうとするのか。・・・・・・どんなフェチだ?」 「いや、そうじゃねぇだろ・・・・・・。」 たしかにどんなフェチだよ。 「・・・・・・どうせ、俺がいったってやることもないだろ。クラスの連中もわかってるだろ。」 その一言を言った瞬間、篠川の顔はまるで張り付いた仮面のように、無表情になった。 屋上でトランペットの演奏を聞いたときのような、あの冷たさも感じる。 「・・・・・・へぇ。」 第一声。 納得の声。 「そーやって、いつも逃げてるんだね。冬樹君って・・・・・・。」 第二声。 罵倒。 「つまんなくない?」 「え?」 「なんでもかんでも確かめもしないで、頭ごなしに否定するなんてさァ・・・・・・。」 篠川は顔を俺に近づけてきた。 その顔は、教師が生徒をしかるように、あからさまな不機嫌な表情だった。 「そんなことね。確かめてみないと分からないんだよ?実はみんな、冬樹君と話したがってるのかもしれない。冬樹君の言うとおりみんなさけてるかもしれない。でも、それを確かめないで一人で勝手にみんなの気持ちを決め込んで、自分だけ特別だと思って・・・・・・。そんなことして楽しい?」 怒ってるのか、悲しんでるのか、とにかく今の篠川は泣きそうな顔をしていた。 説き伏せるように俺に怒っていても、どこかその言葉は別のところに向けられているみたいで・・・・・・。 「・・・・・・・・・・・・。」 正論だった。 でもそれを肯定できるほど、俺は強くない。 篠川が言うとおり、逃げているだけだ。 今更言われなくても・・・・・・ わかっている。 俺が屋上に逃げ出すようになったころから、自分が逃げていたことくらい。 「行こ。」 篠川が手を取る。 やさしい笑顔だった。 あの冷たい雰囲気も、 あの怒ったような、悲しいような顔もない。 トランペットの演奏のときもそうだった。 冷たかったあとにはこの笑顔が出てきた。 「居場所がなかったら、私たちの班を手伝ってよね。結構、遅れ気味で学校祭に間に合うかどうか微妙なんだよね☆」 篠川に手を引かれたまま、教室の前に着いた。 中は、騒がしかった。 *** シーン1 背景:学校 *** 教室に入ると、ちらほらと人がいた。 部活などの関係もあってか、15、6人だった。 「・・・・・・・・・・・・。」 予想どおり、作業していた連中は驚いた顔をしていた。 予想外、そして困惑と言ったところか。 気まずい空気が流れる。 「お、おはよう。」 クラスメイトの一人が挨拶してきた。 おはよう。 何ヶ月ぶりに聞いたんだろうか? あたりまえなのに、違和感がある。 「・・・・・・おはよう。」 返す。 おはよう・・・・・・と。 何ヶ月ぶりのやり取り。 いや、高校に入ってからは初めてかもしれない。 「おっはよーーー!!!皆さん!!精が出てますね〜〜!!!」 うるさいのが、後ろから叫ぶ。 同じ挨拶なのに、耳に響く。 元気がよいというよりは、もう一種の殺意を感じるくらいの声。 反響するように耳に響く。 「・・・・・・っるせぇよ、お前。」 耳を押さえて、振り返る。 なに?って感じで笑った顔で篠川は見た。 「さぁさぁ!!お手伝いしましょう!!」 文句を言う前に、背中を押される。 半ば無理矢理に教室の中に押しこまれる。 「押すな!!」 *** シーン2 背景:学校 *** 「・・・・・・・・・・・・。」 篠川はああ言ったものの、やはり回ってくる仕事などなく、教室の右隅で携帯をいじっていた。 やっぱ帰ろう、と思い携帯をしまうと、室長が声をかけてきた。 「遠山、手伝いを頼めるか?」 こいつはいわゆる文化系ってやつで、俺よりも運動面も頭も、ついでに身長も劣る。 が、はっきりとした積極性のある性格で、いろいろとうるさいクラス(特に篠川)をまとめている。 名前はたしか、天野義弘(あまのよしひろ)だ。 「・・・・・・いいけど。何をやるんだ?」 自分の学校祭の仕事はわかっているが、他人の仕事なんて覚えていないし、覚える気もない。 天野は、誘導するように手招きをして、教室の左端の二・三人グループの所につれてきた。 「看板だ。俺たちは廊下に掲げる看板と、掲示板に貼る用紙を作っている。用紙はあとはコピーをするだけなんだが、看板のほうがなかなか進まなくてな。色塗りを手伝ってほしい。」 見ると、床には人一人分くらいの大きさの看板と、大量の絵の具が置いてあった。 看板には下書き用の鉛筆で「お化け屋敷」と安直な名前と、 血を垂らしたような文字に、コミカルなゾンビとミイラ(包帯男か?)が書いてある。 背景には「黒」とでかく書いてあり、まだ手付かずだった。 「どこを塗ればいい?」 どうせ背景だと思うが・・・・・・。 すると天野は座り、刷毛を俺に差し出した。 「見てわかるとおり、背景が終わってないからな。頼む。」 「ああ・・・・・・。」 自分でしかわからないくらい、ほんの少しだけ返事が遅れた。 そうだ。 頼まれたときは、返事をするもんなんだ。 今、この教室にいることで自分が今までどれだけ孤独だったかわかる。 悪くはない。だが居心地は最悪に悪い。 なんとなく、自分は一人があっている。 そんな気がした。 そして予想どおり、背景を塗る羽目になった。 ** シーン3 *** 「・・・・・・ふう。」 汗を拭く。 残暑の教室で、いつのまにか集中して作業をしていた。 教室に掲げられた時計はもうすぐ正午になる。 看板は8割方完成していた。 背景は黒く塗り終わり、血文字やお化けたちは半分ほどといったところか。 俺の塗っていた部分は他に比べてむらが少ないが、作業が遅いようだ。 で、俺は今、一番手前の「お化け屋敷」の「敷」を塗っている。 細かいほうが俺は合ってるだろうと、天野が余計な気遣いをしてくれたおかげで、かなり苦戦している。 ただ決められた範囲を塗るだけなのに、こんな刷毛では塗りにくい。 休憩を繰り返しながら塗っていく。 「おまえらそろそろ下校だ〜。」 担任教師が入ってくる。 学校側の都合か、半端な状態だが下校を迫られる。 クラスメートの連中は談笑しながら片付けを始めていく。 「俺たちも終わるか。」 天野がそう切り出すと、作業していた俺たちも片付ける。 「遠山。」 天野が呼ぶ。 「今日はありがとな。片付けは俺たちがやるから先にあがっていいぞ。」 「ああ。」 天野の様子じゃ、どうやら俺の加入で思いのほか進んだらしい。 天野たちが簡単な片づけをしている間、俺は荷物を持って教室を出た。 教室を出て、少し歩くとさっきまでの喧騒は嘘のように静かだった。 昼下がりの午後。 部活動は交代の時間となり、二階から見える外には制服姿の生徒がちらほらいた。 多くはおそらく片付けをしているだろう。 うちのクラスのように。 「冬樹く〜ん!!待たれぃ〜!!!」 前言撤回。 うるさいのが走ってきた。 しかもどこかの武将のような口調で。 「・・・・・・うまくやってたね。」 俺に追いつき、少し息を切らしていた篠川の第一声はそれだった。 「なにが?」 なにがうまくいったんだ? 色塗りのことか? たしかに丁寧には塗れたが、多くは塗れなかったし、文字のほうにいたっては完成していない。 「・・・・・・冬樹くんなんか別のこと考えていない?」 「はぁっ?」 「やっぱわかってないよ・・・・・・。」 篠川は、はぁ・・・・・・とため息をつくと俺の前に立ちはだかってくる。 「どう?自分の居場所はなかった?」 「あ・・・・・・。」 居場所・・・・・・。 つい4時間前まで否定していたもの。 気づけば篠川以外のやつから誘われ、気づけば集中するほどやっていた。 「ねっ☆やっぱり行ってみないとわからなかったでしょ?」 笑顔で問い掛ける篠川。 まるで自分のことのように、嬉しそうにしている。 だが・・・・・・ 「さぁな。」 篠川を避けて、昇降口に向かう。 篠川は、またついてきて正面に立つ。 そして俺はまた避ける。 そんなことを繰り返しているうちに、昇降口に着いていた。 *** *** シーン1 *** 「冬樹くん。このあと暇?」 帰路につく、まだ学校の敷地内にはいたが。 「別に用事はない。」 「じゃ、じゃあさぁ・・・・・・。」 篠川は持っていたトランペットのケースを俺に見せた。 「また・・・・・・聴いてくれないかな?」 「学校祭で吹くやつをか?」 「うん。正確には違うんだけどね。」 「?」 篠川はついてきて、と言って足早に歩いていった。 どこに行くつもりなんだ? 普通に歩きながら、篠川を追っていく。 着いた先は中庭だった。 正確に言えば、中庭にある休憩所のようなもの。 周りは木々に囲まれており、外は見にくい。 緑地にあるような木製の屋根もある。 利用者は少ないようで、俺自身、来るのは初めてだ。 備え付けてある机とベンチがあり、篠川はトランペットを机に置く。 俺はベンチの右端に座る。 「ここは一応『憩いの広間』ってなってるけど、誰もこないし、外からも見えないし・・・・・・。」 篠川は顔を俯かせていた。 なにをしてるんだ? 「・・・・・・えっと、その・・・・・・なんていうか・・・・・・。」 何かに戸惑っている。 早く吹くなら吹いてくれ。 腹が減ってきた。 「トランペット。」 じらされるのは好きじゃない。 少々我慢ができなくなってきたので、俺から切り出した。 「ふぇ?」 間抜けな、虚を突かれた声が返る。 ああ、なんで俺はこいつと一緒にいるんだ? 今更ながら少し後悔。 「聴かせたいなら早くしろよ。こっちは暇じゃないんだ。」 間を崩されたように、篠川の顔は紅潮していく。 それと、なぜか怒ったような顔だった。 「まったく・・・・・・冬樹くんはデリカシーってものをしらないのかなァ?」 ぶつぶつと謎の文句を言いながら、ケースをあけていく。 デリカシーのない? それは篠川のほうじゃないのか? 少々(なぜか)怒りながら、さすがに手馴れた様子でトランペットを準備する。 そして鞄からMDプレイヤーを引き出し、小型のスピーカーも出す。 おそらくMDには、録音した音源が入っていて、それに合わせて演奏する気だろう。 トランペットを片手に持ち構えて、もう一方の手でMDにスイッチを入れる。 ピッと、電子音が鳴り、読み込みをしている。 その間に篠川は演奏体制に入り、流れ始めた音楽に合わせて演奏する。 流れる曲は昨日屋上で聞いた曲とは違っていた。 名前は忘れたが、とりあえず有名なクラシックだ。 中学時代に吹いた覚えがある。 いわゆる交響曲というやつか? 少人数のバンドで弾くよりは、大人数のオーケストラで弾くという曲だ。 迫力のある曲で、部員のそれなりにいる吹奏楽部が弾けば、すごいものにはなるだろう。 しかし、電子機器から流れてくるのは所詮は録音した音で、生で演奏しているのはトランペットのいちパートだけだ。 迫力に劣る。 さすがにフルで演奏するわけでもなく、一番だけを吹き終えるとこちらを向き、篠川は「どう?」と尋ねてきた。 「普通。既成曲だし俺でも吹ける。」 率直に言えばつまらない。 ありふれた曲に今更感想など付けようがない。 具体的に言えば、前聴いた、篠川のオリジナルの曲のように感情が込められ、吹きたいから吹く。というのが伝わってこない。 与えられた仕事をこなしている。 それだけのような気がした。 そんなことと、機械でもできる。 演奏していた篠川は、機械だった。 譜面通りの吹き方。 一般で言う『上手』。 篠川は満足したようにトランペットをしまい、隣に座った。 「学校祭は吹くやつ、これに変わっちゃったの。先生が吹奏楽部全員でやろうなんて言い出して、しかもみんなが知ってるこの曲にしようなんて言って・・・・・・。まったく、私の苦労はなんだってんだか・・・・・・。こんなありふれた曲じゃつまんないよ」 愚痴をこぼす。 本当にがっかりそうだった。 自分で作った曲によほど熱が入っていたみたいだ。 俺もさっきそんな印象を受けた。 「どんまい。」 声をかけ、励ましてやる。 少し皮肉もこめて。 すると篠川は目を見開いて、びっくりしていた。 そして、顔をそらしてどこかを見る。 「なぐさめられた。」 「はっ?」 「冬樹くんになぐさめられた。」 「いや、だからどうした・・・・・・。」 すると篠川は突然立ちあがった。 そして腕をのばし、伸びをするような姿勢で、 「なんか悔し〜!!!」 と叫んだ。 そして俺を見る。 いや、見るというよりは睨むに近い。 獲物を狙う鷹の目というよりは、あてのない殺気の篭った目。 憎悪というべきか、嫉妬というべきか。 「冬樹くんが悪いわけじゃないし、むしろなぐさめられた私は喜ぶべきなんだろうけど、なにこの悔しさ。この心の底から馬鹿にされた感じ!!くやし〜!!むき〜〜!!!」 ・・・・・・・・・・・・。 どうやら何か地雷を踏んだようだ・・・・・・。 猿真似のように、わかりやすい、漫画のような『怒ったしぐさ』をする篠川。 たしかに皮肉まじりでは言ったが・・・・・・。 やっぱり、篠川は鋭い感受性を持っているようだ。 一見は面白い行動なのだが、こう目の前でやられるとうざったくてしょうがない。 ため息をついて、怒りの神が静まるのを待った。 ああ、腹減った。 *** 怒りの治まった篠川。 トランペットをしまう篠川に俺は声をかけた。 ある疑問。 聞こうと思っていたのだが、どうにもこいつのペースに巻き込まれがちで聞くタイミングがなかった。 「どうして・・・・・・俺に構う?」 なんで俺なんだ? この学校は俺や篠川の出身中学から近いため、他にも同じ中学の奴はいるはずだ。 吹奏楽部出身がいるかわからないが友人の多そうな篠川なら俺以外にもアドバイスを与えれる人間がいるはずだ。 俺じゃないといけない理由なんてない。 「どうしてって・・・・・・、言われても・・・・・・。」 篠川は明らかに困惑していた。 ただその仕草は理由が言えないというものよりもむしろ理由を探しているという感じだ。 つまり、俺を選んだのにたいした理由はなさそうだ。 「冬樹くんが、同じクラスメイトだったから・・・・・・。たまたま・・・・・・。」 やっぱりそうか。 いま、距離的に一番近くて楽器に詳しく、なおかつ顔見知り・・・・・・条件的に俺が当てはまっていたわけか。 「まぁいい。もう勘弁してくれ。」 「え・・・・・・?」 「利用されるのは好きじゃない。第一、俺じゃないといけない理由なんてないはずだ。」 「り・・・・・・利用なんてしてないよ。私はただ冬樹くんに聴いてもらいたくて・・・・・・。」 「それが利用っていうんだろ?」 「・・・・・・・・・・・・。」 「正直迷惑だ。やめてくれ。」 「・・・・・・・・・・・・。」 篠川は俯いたままだった。 酷なことを言っているのはわかっている。 篠川のおかげで、すこし視野が広くなったのは感謝している。 だが、これ以上干渉して欲しくない。 俺自身のためでもあり、篠川のためでもある。 俺なんかといるより、もっと友人といたほうがいい。 「冬樹くんは、私のことうっとうしかったの?」 「・・・・・・ああ。」 別にそんなことはない。 だが、そんなことを言っては変わらない。 「なら・・・・・・。」 篠川は他の方向を向けていた顔を俺に向けていた。 「大成功だね!!」 「・・・・・・・・・・・・はぁ?」 あげた顔は笑顔だった。 それもなにか達成感に満ちた。 なぜだ? 俺は篠川を拒絶したのに。 「だって、鬱陶しいってことは、私のことを意識してるんだよね!!昨日なんて話し掛けてもどっか上の空って感じだったからさ!!」 ・・・・・・。 どんなにこいつはポジティブな発想なんだ? 結果的に拍車をかける展開になってしまった。 聞きたいことも曖昧だった。 篠川のあの発言を聞くとやっぱり俺じゃなければいけない理由があったみたいだ。 だが、篠川は最初にそれを言わなかった。 篠川の内がわからない。 *** 演奏シーン後 午後の夕暮れで。 *** そうこうしているうちに、辺りは暗くなってきた。 残暑の秋は6時になると日が落ちる。 ここから見える時計は5時半ほど。 まぁ家は近いし、日が沈んでからの帰宅は無いだろう。 「あれ?あれって天野君に優子ちゃん?」 憩いの広間から出ると、少し離れたところに天野と木村がいた。 はたから見てだが、雑談をしているというより会議をしているらしい。 木村の様子を見ると、天野に相談を持ちかけてるみたいだ。 しかし天野は答えに渋っている。 悩んでいる様子がわかる。 「どうしたんですかお二人さぁ〜ん!!」 厄介ごとに巻き込まれるのが好きなのか、篠川は二人を手を振って呼んだ。 こちらに気付いた木村は篠川に手を振り、天野といっしょに向かってくる。 「どうしたの二人とも?」 篠川も、二人が悩んでいたような様子を感じ取って質問をした。 それでなければわざわざ呼ばないか。 「木村が、小道具の資材が足りないと言ってきてな。どうしようと相談を持ちかけられていたところだ。」 天野が説明した。 ふんふんと、篠川はうなずいている。 「資材は量がいるらしくてな。持ち運ぶのが大変だからこの辺りで調達したいんだが、買出しに行こうにも、俺も木村もこの辺に詳しくない。どうしようかって悩んでいた。」 「なるほど〜。」 「あっ!春菜って、ここら辺に住んでるよね?」 「たしかに近いは近いんだけど、買い物はここら辺でしないからあんまり詳しくないんだよね〜。」 徒歩で学校にはきているが、近いというわけではないのか? それともただ単に知らないのか? 学校から少し歩いたところに、大型のディスカウントショップ○○(何かのアナグラム)百貨店がある。ディスカウントショップとは言うものの、実際は大手百貨店と大差は無い。全国的に見れば無名の百貨店ではあるが、店の大きさは大手百貨店と大差ないほどの規模だ。 屋上から見れば簡単に見つかる場所にある。 が、徒歩では多少の距離もある。 ほんの数百メートルなのだが・・・・・・。 学校をはさんで反対側にある。 近場で揃えるならあそこしかない。 て、待てよ? この4人の中で、その店を知っている、近場の人間は俺しかいない。 て、ことは・・・・・・。 「冬樹くんは、どっかいいところ知ってる?」 やはり振りがきた。 知らないふりをするのも性にあわない。 案内する必要も無いし、場所だけなら教えてやろう。 「ああ、そっちにまっすぐ行けば○○百貨店がある。」 店のある方角を指す。 俺の仕事は終わった。 後は買出しでもなんでも行ってくれ。 「そうか。じゃあ明日、案内を頼む。」 ぽん、と天野の手が肩に乗る。 ・・・・・・なんだこの手は? 「遠山がいて助かったな。」 ちょっと待て。 いま教えただろ。 「よかった〜。遠山君が知ってて。明日はよろしくお願いしますね。」 木村は胸をなでおろし、一安心した表情を出していた。 「じゃ!明日はお昼の1時に学校に集合だね!!」 いきなり篠川がまとめる。 おいおい。 俺はまだ行くとは言ってないぞ? 「じゃあまた明日な。」 「さようなら。」 天野も木村も帰っていく。 「じゃ!私も行くね〜!!」 篠川は走り去っていく。 ああ・・・・・・。 どうすれば・・・・・・。 *** ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 9月10日(日) --------------------------------------- *** 打ち水の昼間と言うべきか、昨夜にかけて降った雨のせいで気温はそれほど上がってはいなかった。 だが、それでも残暑の季節。 暑いのには変わりは無い。 午後12時55分。 学校の校門。 日曜は基本的に生徒はいない。 門は開いているが、部活のために開いているのだろう。 他の奴らはすでに全員揃っているようで、門の前には三人の人がいる。 天野に木村、それに篠川だ。 三人は談笑しながら、俺を待っていたようだった。 「あ!来た来た♪」 俺の姿に気付いた篠川が手を振る。 俺はゆっくりと近づいていく。 「遅いよ冬樹くん。遅刻だね!」 「12時58分。セーフだ」 「屁理屈だなぁ〜・・・・・・」 何処が屁理屈だ。 篠川が1時に集合と言ったのだから、間に合えばいいだろう。 「学校から、校舎への入室許可は取ってある。時間が惜しいから、できるだけ早く案内してくれ」 と、天野が急かす。 たしか規則では、日曜の学校は5時で閉まる。 4時間あるが、時間に余裕を持ちたい気持ちも分からなくも無い。 めんどくさいが、今日は付き合ってやるしかなさそうだ。 「・・・・・・わかった。こっちだ」 俺を先頭にして、店に向かう。 *** 店内はやはり涼しかった。 二階建てといえるのかは、はたして疑問だが、2フロア構成になっている。 目当ての雑貨等が売っているのは、俺たちが入った入り口の反対側。 建物の隅に大きく陣を取っている。 「へぇ〜。結構何でも売ってるんだね」 まわりを見渡しながら呟いたのは、木村だった。 思えば、木村が来たい、来る必要があったから、いまここにいるんだった。 俺以外は、辺りを見渡しながら奥へと進んでいった。 * 一角のそこは、日曜大工でもするような木材と機械がまず目に付く。 そして、木村が目当てにしているものもたぶんある。 木村と篠川は、なにか違うもの(どっかのキャラクターの便箋か?)の主に物色している。 なにが買う必要があるのかは、俺は分からないが、あれは絶対に違う。 「遠山」 同じくただ立っていただけだった天野が声をかけてきた。 「俺たちは・・・・・・どうする?」 「・・・・・・さぁな」 居場所がないのは、俺もこいつも同じか。 もともと案内のためだけに来た俺と、室長だからという理由できた天野。 俺らは別にこの場所にいる今はまるで無い。 「やれることは荷物運びくらいだからな。どこかで時間をつぶすか」 と言って天野は、木村たちに近寄っていった。 なにか一言いい、木村はうなずいた。 そして戻ってくる。 「俺は、飲食コーナーででも行ってくるが、遠山はどうする?」 俺は・・・・・・ * 選択肢 A:ここでひたすら待つ。 B:書店にでも行く。 C:天野と一緒についていく。 * Aルート 「別に行くところもないし、待ってる」 「そうか。木村の話では軽く1時間以上はかかると言っていたがな」 い・・・・・・1時間もかかるのか・・・・・・? どうする? * A:やっぱり待つ。 B:書店にでも行く。 C:天野と一緒に行く。 * Aルート 「1時間くらい待ってるさ。飽きたらどっかに行く」 「そうか。わかった」 そう言い残すと天野は立ち去っていった。 一人孤立状態の俺。 ・・・・・・。 ・・・・・・。 書店にでも行こう。 * Bルート 「二階にある書店にでも行ってくる」 来慣れているここで、時間をつぶせるとしたらここしかない。 実際のところは帰りたいのだが、後々面倒なことになりそうなので我慢しておく。 「そうか。用があったら呼びにいくからできればあまり動かないでくれ」 「わかった」 たしかに店内は広い。 むやみやたらに移動されては、探すのに困るだろう。 アナウンスなんかで呼ばれたら一生の恥だ。 天野が飲食コーナーに行くのを見て、俺は2階の書店に向かう。 * 中央の開けた空間から、二階に上がる。 階段からさほど離れていない場所に書店はある。 まず目の前には、週刊、月刊誌が置かれ、中は正面から見て右手が漫画や小説など、左手が実用書や、論文など、奥の戸棚が参考書や辞書のコーナーとなっている。 雑誌や漫画は読まない。 小説も嫌いだ。 よって用があるのは、奥のコーナーだけということになる。 びっしりと並べられた本。 見たことも無いやつもある。 最近の参考書もなかなか凝ったものが多く、なるべく記憶しやすいように工夫を凝らしているものが多い。 とくに英語のものはそうだ。 なにかのキャラクターが解説をしていったり、有名らしい漫画を英語に訳して、それを解説していくものだったり、とにかく、印象に残るためにあれこれやっている。 だが、実際に効果があるのかは疑問だ。 英語など、文法と単語さえ覚えていればどうとでもなる。 いつか、『高校英語は100%暗記だ』とか聞いた気がする。 まさしくその通りだ。 数学のように小難しく悩む必要も、現代文のように、内容を理解して作者の意図を読む必要も無い。 当てはまる公式を見つけ、入れるだけ。 それが、高校英語。 本当にネイティブに英語を話せるようになりたかったら、外国に半年くらい留学すればいい。 外国語なんて教えられてできるものではない。 習うより慣れろ、だ。 棚を見渡していると、一つ気になる本がある。 『これで完璧!高校政治経済』 なんともありきたりな名前だが、完璧と歌っているのだからそれなりの内容なのだろう。 立ち読みできるようにもなっている。 そういえば篠川に政経は負けていたんだっけな。 多少は悔しかったが。 * 開いてみると、まずは政治の内容だった。 政治経済とあるが、この公民という分野は実に曖昧で、政経、現代社会、倫理という3つの分野が混ざっている。 倫理は少し焦点が違うのだが、政経と現代社会はほとんど似たようなものだ。 現代社会は視点が名のとおり現代を中心にしているが、そもそも政治や経済が発達してきたのは近代からだ。 内容的にはほとんど変わらない。 参考書は、なかなかの内容だった。 単元や分野別に分かれ、重要ポイントに絞って説明をしている。 入試などで差が出る、マイナーな部分も押さえ、手際がいい。 章末には、復習を兼ねて問題が設置してあり、どれも過去のセンター試験や、大学入試から取り入れている。 正直、少し欲しい。 値段を見てみると『1500円』と書いてある。 参考書にしては少し高めだ。 買えなくもないが、ここは我慢しよう。 携帯電話を開くと現在1時45分ほど。 そろそろ選び終わっているか? だが不用意に行っても、また待たされる羽目になるかもしれない。 天野が迎えにくるまでここで時間をつぶしていよう。 * 先ほどの参考書を一通り眺め終える。 まだ来ないのか? 「よっ!」 「!!」 ちょうど振り返ると篠川と天野がいた。 って、なんで篠川がいる? 「やっと見つけたよ。天野くんがここにいるって言うからさ〜」 「篠川が、目当てのものは揃ったと言ってきてな。じゃあ遠山を呼びに行かなきゃなと思って」 「じゃあ、必要なものは買い揃えれたんだな」 呼びにきたならそういうことになる。 あとは荷物を運ぶだけだな。 「優子ちゃんが待ってるから行こうよ!」 篠川は、踵を返して進んでいく。 俺と天野はそれについていった。 * 「あっ!春菜に、天野君、それに遠山君・・・・・・!」 木村は店の前にいた。 横にはカートがあり、それには結構な量の資材が載っていた。 「こんなに買うのか?」 天野がもらす。 たしかにかなり大量だ。 どれだけ作るんだ? 「うん。大体は布だけど、トタンとか、コース作りに必要なものもあるから」 布? そんなものが必要なのか? 暗幕とかに使うのだろうか? だとしてもあの量はおかしい。 「・・・・・・資金がたりるか・・・・・・?」 天野は財布を開いて予算を確認している。 学校祭のための材料なんだから、当然その費用は学校から出る。 無駄遣いはできないし、オーバーしたら自腹になる。 中身を確認した天野は、積まれた材料のところに行き、値段を確認している。 「ちょっと買いすぎちゃったかな・・・・・・」 隣で篠川はそう呟いた。 だったら量を減らせばよかっただろう。 「・・・・・・ぎりぎりだが、なんとか足りる。・・・・・・だが少し減らせないか?」 「でも、減らしたらまた足りなくなっちゃうかも・・・・・・」 「だが・・・・・・」 天野と木村の攻防が続く。 ほとんど全部使い切ってしまったら、後は自腹になる。 だが、学校祭を3日後に控えて、いまさら材料の買い増しは無いだろうと、葛藤する。 「・・・・・・仕方ない」 結果、天野が折れた。 このままでは埒があかないとでも思ったのだろう。 カートを引いてレジに向かう。 「ちょっと待ったぁ〜!!」 いきなり篠川が二人を静止する。 驚いて、木村と天野は振り返る。 「ど、どうした篠川・・・・・・?」 「あのさ〜。まだ時間あるし、ちょっと買い物していかない?」 なんだと? 確かにまだ2時過ぎだ。 だが、用事はこれだけのはずだ。 「カートはさぁ、お店の人に頼むかなんかして、ちょっと買い物行こうよ♪せっかく来たんだし♪」 だったら、カートに入れなければよかっただろ。 「・・・・・・うん。そうだね、せっかく来たんだし」 あっさりと木村は同意する。 天野は? 「・・・・・・わかった。ただ4時半には戻ってこないとな」 「オッケー!冬樹くんはどうする?」 ・・・・・・断れる雰囲気じゃないだろ。 「・・・・・・好きにすれば」 また書店か、飲食コーナーで時間をつぶしているか。 「じゃ!きーまりー!!」 篠川は声を上げた。 * ここは、かなり大型の店舗だ。 大体のものは揃う。 買い物にはもってこいの場所だ。 ただ・・・・・・。 「あ!これもかわい〜!!」 「これ春菜に似合いそうだよね〜!」 「・・・・・・」 「・・・・・・はぁ」 振り回される男二人。 レディをエスコートするのが男の役目とか意味のわからないことを言われ、半ば強制的に連れて来られている。 エスコートもくそも無い。 単なる荷物持ちだ。 「悪いな遠山、付きあわせて・・・・・・」 天野が謝罪する。 こう謝られるとどことなくすっきりしない。 「お待たせ〜!」 篠川たちが、物色を終え俺たちのほうに向かってくる。 買い物袋を下げて。 「じゃ!次は何処に行こうかな〜・・・・・・!!」 篠川と木村はともに歩きながら、俺と天野はその後ろを歩く。 帰りたい。 * 「遠山くんたち、どこか見たいとこある?」 木村がそう切り出した。 俺は地元でたまに来るから、あまりない。 天野はどうだ? 「特に無い。木村たちはもういいのか?」 「私はもういいよ。あんまりお金持ってこなかったし」 「篠川は?」 「ん〜・・・・・・・・・・・・」 篠川は悩んだ表情で辺りを見回した。 買い物はすでにすんでいるようだし、時間的な猶予はそれほどあるわけでもない。 「あっ!!」 篠川は何かを見つけたように、走っていった。 そこはゲームコーナーだった。 いわゆるゲームセンターのように数はないし、UFOキャッチャーなども少ない。 「ねぇねぇ!最後にみんなでこれやろうよ〜!!」 篠川が飛びついたものは、ガンゲームだった。 銃型のコントローラーで、現れた敵を撃つ、シンプルなもの。 リロードや射撃など、アクション性の高いゲームだ。 俺はもちろんやったことは無い。 「わぁ!おもしろそうだね!」 まずは木村が乗る。 木村は意外とノリのいいやつみたいだ。 いままでの流れでいけば、この案は絶対に採用される。 おそらく天野も乗る。 そうなったら俺に選択の余地は無い。 「よし、やるか」 天野が乗った。 はぁ・・・・・・。 * 「二人で協力プレイができるから、組み合わせはどうしようか?」 篠川の提案。 ガンゲームで二人モードでやり、高得点だった人が優勝。 この手のゲーム、というかゲーム自体ほとんどやったことの無い俺が最下位最有力。 「せっかく男女二人づついるんだし、男女ペアでやろっか」 男女ペアで。 となると篠川か木村になる。 「ここは公平に、じゃんけんで決めよう」 天野がそう言った。 つまり、俺と天野、篠川と木村がじゃんけんをし、買ったもの同士、負けたもの同士で組む。 「いくぞ遠山・・・・・・!!」 あれ、なんか、気合が入っているなこいつ。 「じゃあ〜ん〜〜け〜〜ん〜〜・・・・・・」 なにを出す・・・・・・? *選択肢 A:パー B:グー C:チョキ (勝ちか負け。あいこは無し。勝った場合は篠川と、負けた場合は木村と。3分の2の確率で勝つ) * 勝ちの場合。 「お。勝った・・・・・・」 出した手は勝利していた。 天野を見ると、無表情を気取っているも、とことん悔しそうな顔をしている。 いや、悔しいのは分からなくも無いが、これはペア決めのじゃんけんだ。 勝ち負けよりも、誰と組むかが問題だろ? 「そっちの勝ちの人は〜?」 篠川がこっちを見る。 「俺が勝った」 小さく挙手をして、俺が勝ったことをアピールする。 「おっ!私は冬樹くんとだね!!よろしく!!」 すこし嬉しそうな顔をした篠川。 だがそれ以上に嬉しそうな・・・・・・というかにやけた顔をした天野。 よかったな、篠川とペアじゃなくて。 * 「ルールはさっき言ったとおりね。相手の敵を横取りしてもよし!協力してどんどん進むのもよし!一番点数の高かった人が、一番低かった人からジュースをおごってもらうこと!!」 いつのまにか、軽い罰ゲームが追加されている気もするが・・・・・・。 最下位有力候補である俺は、できれば篠川と協力して得点を稼ぎたいところだが、こいつと協力するのは気が引ける。 それに協力とか、雰囲気的にしなさそうだ。 「冬樹くん・・・・・・。お互い敵・・・・・・、容赦しないからね・・・・・・!!」 あっさりと宣戦布告をされる。 俺は独力で勝たないといけない。 さっさと死んで、もうおごる羽目になったほうが楽かもしれないな・・・・・・。 * 『ゲームスタート!!』 と、画面に表示される。 大画面の右からと中央から1体ずつ標的の敵は現れる。 ドンドン!! 瞬間的に銃声が画面から鳴る。 隣の篠川を見るとわざとらしく銃口に息を吹きかけている。 「冬樹く〜ん。ぼさっとしてると1体も仕留められないよ〜・・・・・・」 あ。 なんか、頭に来た。 次の瞬間、突然現れた敵。 その数は3。 ドンドンドン!! 3発の銃弾は全て頭部に命中し、点滅しながら消えていく。 「へ!」 大きく鼻で笑ってやる。 「まだまだ勝負は始まったばかりだよ〜・・・・・・」 低音の篠川の声が聞こえる。 表情は見ないでも分かる。 絶対悔しがっている。 ドンドンドンドン!! 銃声は響く。 * やっているうちに、このゲームの規則性が分かった。 場面が切り替わったとき、必ず3体以上の敵がバラバラに配置している。 1体撃つと、画面の横から飛び出してくる。 それが連続して続いているうちにいつのまにか画面の奥から攻撃してくる敵がいる。 そして気付かないように、ボーナスキャラというのか、他の敵とは違ったキャラが、目立たないところを横切っていく。 それに色違いの敵は、こちらへのヒットの確率が高い。 それには注意がいる。 手順としては、まず、一番近い敵をしとめつつ、色違いを中心に撃っていく。 そして、1体倒したら適当な場所に撃ち、ボーナスキャラを運だが狙ってみる。 命中率の高い敵が画面上にいなくなったら、リロードし、とにかく乱射する。 それを繰り返せば、短時間で一掃できる。 コツさえつかめばわりと簡単なものだ。 もうこの時点では負ける気がしない。 だが、素人の俺に、そのハンデは大きい。 現時点ではポイント的には篠川に負けている。 序盤に開けられた点差が縮まっていない。 木村や天野がどれだけやれるか分からないため、たとえ篠川に負けていても、点数を稼がなければ・・・・・・。 * ドン! 『YOU LOSE』 一発の銃声が余計に長くこだまし、画面に終了の文字が現れる。 同時に敗北者が決まった。 俺と篠川の対決は結局、あっけなく俺の負けで終わった。 序盤・・・・・・まだコツをつかんでいなかったころに受けたダメージが響き、いきなり増えた敵に対処しきれず、やられてしまった。 同ステージで篠川もやられ、結果、序盤の点差のまま終わった。 「初めてにしては上手すぎるよ〜〜!あせったあせった・・・・・・!」 それでも篠川は勝者。 顔は勝ち誇っていた。 悔しいが、初めてにしてはまあまあだろう。 性分に反するが、なかなか楽しめたかもしれない。 「じゃ!次!優子ちゃんと天野くん!!」 なんとも微妙な組み合わせの二回戦目が始まった。 * 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 「はい!はい!はい!はい!」 意外というか、なんというか。 ゲーム序盤は、俺たちとは違い、和気あいあいとやっていた天野と木村だが、第3ステージで天野がやられてから、一気に状況が変化した。 恐るべき反射神経と命中精度。 ここしかないというタイミングでリロードし、敵の攻撃を許さない。 たまにバズーカを使う敵が出てくるが、普通隠れてその攻撃をやり過ごすのだが、木村は飛んでくる弾さえ撃ち落としている。 木村は見た目、おとなしそうな、篠川とは対照的なイメージがあったが、今は銃を握る姿が異様に似合う。 「優子ちゃん、最終ステージだよ・・・・・・!!」 篠川は応援する。 「うん。6回目だから大丈夫」 そうか。 過去にこのゲームはやりこんでいるんだな。 勝てると確信していたから乗ったわけか。 木村は、天野と組んでいたときに受けたダメージのみで、まだ4回食らっても大丈夫だ。 そんなにやっているのなら、負けろことは無いだろう。 ちなみにだが、この時点で木村と篠川の点数は倍近く離れている。 木村は優勝が決定している。 最下位は、おそらく天野だ。 ドンドンドンドン!! 「ふう・・・・・・」 木村が一息ついた。 画面は自動的に進んでいる。 ボス前のムービーだろう。 「さてと、行こうかな」 銃声が激しさを増す。 画面を飛びながら移動するボスに木村も苦戦気味だ。 着地して、一瞬止まったところに一発。 それを繰り返しながら、地道にダメージを与えていく。 「あっ!」 画面が赤くフラッシュした。 木村がダメージを受けたのだ。 ライフは残り3. 「もう!絶対倒す!!」 そして、木村は壊れたように、強くなった。 本来6発ごとにリロードしなければならないのに、発射速度とリロードが早すぎて、まるで銃弾が無限のように思える。 木村の指の動きがおかしい。 その光景はおかしい。 絶対おかしい。 いままで、時間をかけて隙を見て撃っていたのが、今はところ構わず乱射。いや掃射。 まさに数撃てば当たる戦法だが、その数は半端ではない。 いままでのプレイを見て、木村は一発、最小限の弾数で仕留めることを規定理念としておいていたようだが、それが崩壊すると、木村から悪魔が顔を出す。 もしこれが本当の戦争とかだとしたら、木村の周りには人一人生きていないだろう。 それも敵味方関係なく。 悪魔のような恍惚とした表情で悪魔の攻撃を撃ちつづけているうちに、どんどんボスの体力は減っていく。 そして最後に隙を見せた瞬間・・・・・・ 「これで、終わりよ」 悪魔が囁き、引き金が弾かれる。 ズドン!!! 最後の銃弾が・・・・・・ボスの頭を貫いた。 『LAST STAGE CLEAR』 木村は、見事にクリアを果たした。 ぶっちぎりの点数を出して。 「ゆ、優勝は優子ちゃんだね・・・・・・」 篠川の声もかすれていた。 この後、木村の点数が、その台の一位を取ったのは言うまでも無い。 そして、天野がジュースをおごったのもだ。 *** 遠山、木村ペアの場合は、遠山が最下位。 木村が豹変して優勝(同じ展開) 篠川と天野の描写は適当に可も無く不可も無く。 *** 「いや〜!今日は楽しかったよね〜!!」 店からの帰り道、篠川は少し傾いてきた空を見上げながら呟いた。 「そうだな木村の豹変には驚いた」 天野が素直な感想を言う。 あれには、篠川でさえ驚いていた。 「あんまり言わないでよ・・・・・・。思い出すと恥ずかしい・・・・・・」 木村は本当に恥ずかしそうに顔をそらしている。 だが、安心しろ。 それを見て、にやけている天野の顔のほうがよっぽど恥ずかしい。 というか哀れだ。 「ねえねえ・・・・・・」 篠川が口に手を添えながら近づいてくる。 「天野君ってさぁ・・・・・・、優子ちゃんのこと・・・・・・」 ああ。 だろうな。 「俺も同感だ」 あそこまでわかりやすいとは、逆にすごい。 しかし当事者は意外と気付かない。 天野も、木村も。 * 重い資材を学校に運び終わると、終了時刻間近だった。 俺たちは、急いで学校を出て、校門の前に来た。 「遠山、今日はありがとな」 「・・・・・・ああ」 面と向かって言われると、なんとなくやりづらい。 「ほんと、助かったよー」 木村が言う。 「うんうん。おかげで貴重なものも見れたしね〜・・・・・・」 「それは言わないでよ―・・・・・・」 あーあ。 篠川と木村がなんかやってる。 「じゃ、これで解散だな。今日はお疲れ!」 最後は天野が締めて、買出し(?)は終わる。 「俺は帰るな」 一言言って、帰路についた。 * 天井が見える。 ベットに寝そべって、今日のことを思い出していた。 「俺は・・・・・・、なんで・・・・・・」 なんで、こんなことをしているんだろう。 なんであんな奴らと、休日を過ごしているのだろう。 考えても、答えが出ない。 考えても、矛盾しか出ない。 俺はなぜ? 巻き込まれたから? だったら断ればよかった。 断れない状況だったから? だったら行かなければよかった。 行かないといけない状況だったから? だったら途中で帰ればよかった。 なんで最後までいたのかが不思議でたまらない。 思い出しても、わからない。 もういい。 今日は寝よう。 明日からは、また普段の生活がある。 退屈な日々が。 *** ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 9月11日(月) --------------------------------------- *** シーン1 *** 二連休は終わって、学校が始まる。 やはりというのか、またしてもというのか、習慣上、遅刻ぎりぎりに教室に入る。 担任教師は既におり、俺の姿を一瞬だけ見てまた視線を他方に向ける。 俺以外の生徒は大半がきていて、俺が入ってから、数人が走りこんでくる。 「おい!お前ら遅いぞ!!」 遅刻ではないものの、ギリギリでは指導を受けるらしい。 本当に言い訳がましいことを言いながら、生徒たちは席に着く。 あいつらと俺は時間的には大してかわらないが、そこは普段の行いだろう。 優等生は叱られない。 いくらぎりぎりでも毎日間に合っているのだ。 初めのほうはいろいろと言われたこともあったが、今はそんなことはない。 まぁ、他人なんてどうでもいい。 * 授業が始まると、教室は静かになった。 うるさくする連中は寝ていることが多く、まじめな奴らはレベルの低い授業を受ける。 俺は相変わらず外を眺める。 1時間目から体育と行う一年生が、グラウンドでサッカーをしている。 そういえばうちのクラスも、3時間目は体育だったな。 たしか競技は・・・・・・ 選択肢・ A・アームレスリング B・テニス C・サバイバルゲーム Aルート いや、そんなわけない。 スポーツではあるが・・・・・・。 Cルート 戦争でも始める気か? 第一スポーツですらない。 B・共通ルート テニスだったか。 二学期からはテニスだったな。 ラケット競技は得意じゃないが、まぁなんとかなるだろ。 自分で言うのもなんだが、運動神経は悪くない。 単にだるいからやりたくはないだけだ。 そんなことを考えているうちに、1時間目の終わりに近づいていた。 *** シーン2 *** 三時間目になる。 更衣を済ませ、テニスコートに向かう。 体育は他クラスと合同でやるため、知らない顔もある。 男女比は半々くらいか、テニス部らしき人も数人いる。 整列して待っていると、体育教師がきた。 「よし、今日は初日だから試合でもやるか!」 ・・・・・・。 なんとも無茶苦茶な・・・・・・。 確かにテニスはわりとメジャーなスポーツだからいいが、ルールを知らないやつもいるだろう・・・・・・。 そんなやつとあたって、いろいろ支障が出るのは勘弁だな。 教師がテニス部と未経験者に分け、さらに男女に分けた。 ちなみにだが、篠川はいない。 やつは確か、体育館競技をやっているはずだ。 バスケだった気がする。 俺がテニスを選んだのは、テニスが個人競技だったからだ。 他の種目は団体競技で、チームを組まなくてはならない。 そんな馴れ合いは好きじゃない。 嫌いだ。 どうせ体育もサボるもの。 だったら責任が自分ひとりにかかる個人競技のほうが楽だ。 分配された先のコートでは、何人かが打っていた。 どれも素人らしく、ラリーはたいして続いていない。 俺の姿に気づいた一人が、打っていた奴らを集め、試合をやろうと言い出した。 コートの真中で、男子6人がじゃんけんをする。 だいぶ不本意だが、参加しないわけにも行かず、しぶしぶとする。 じゃんけんの結果、組み合わせが決まった。 時間的に、一人一試合。 5ゲームマッチとなった。 ルールは本来のテニスとほぼ同じ。 4ポイント先取の1ゲームを5回。 3ゲーム取ったほうが勝ち、というもの。 サーブは1ゲームごとに交代していく。 6人いるので試合は3回。 俺は二回目の試合だった。 *** 快音を響かせ、ショットが決まる。 それが決定打となり、試合が終了する。 第一試合が終わった。 コートサイドで座っていた俺は立ち上がり、ラケットを持ち上げる。 ボールかコートかを決めるため、ネット前に立つ。相手は手を差し出し、俺は相手を見つめ・・・・・ いや、ちょっとまて、落ち着け遠山冬樹。きっと何かの幻覚に違いない。 ・・・・・・だめだ、2、3度瞬きをしてみるがやはり容姿は変わらない。 対面にいる対戦相手は、明らかに高校生とは思えない容姿をしていた。 ・・・・・・・・・・・・・何だあのマッチョは。本当に高校生か?対戦相手となるやつは、体格がよく、言ってしまえばマッチョなやつだった。浅黒く日焼けした肌。 半そでの体操服からはみ出すような太い腕。 服のサイズが合ってないんじゃないかと疑いたくなるような、ピチピチとしている。 笑ったときに見える白い歯が嫌だ。 ボディビルダーか、こいつは・・・・・・。ボールかコートかを決めるため、ネット前に立つ俺にこいつは手を差し出してきた。「いい試合をしよう!」 したかねぇよ。 無視して、ラケットを回す。 「どっちだ?」 表か裏か。 当たったら選べる。 ラケットを滑らせながら回す。 「・・・・・・裏だ。」 握手されなかったことが不愉快だったのか、こごもった声で言った。 ラケットは回転しながら地面に倒れる。 「・・・・・・裏。」 ラケットの底のマークは反対向きになっていた。 裏で正解。 「よっしょああ!!!」 うざぁ・・・・・・。 当たっただけで何でそんなに喜べる? 安心しろ。 もうすぐ勝利の美酒が味わえる。 俺は負ける気だった。 *** シーン3 *** 現在3ゲーム目、1対0. 相手のサーブ。 一つ前のポイントはレシーブをネットにかけ、相手の得点になった。 そのときももちろん、うざったく大袈裟に喜んでいた。 しかし全体の結果は悲惨なものだった。 1、2ゲームともに俺が圧勝してしまっていた。 わざとミスをして因縁つけられるのもまた面倒だったから、相手の正面や、打ちやすいところに返して決めてもらおうという魂胆だった。 1ゲームまでは・・・・・・。 打ってきたサーブを相手の正面に打ちやすく返してしまった、さらに右側を開けたままにしていた。 誰が見ても、その右側に打てば決まる。 そんな状況にもかかわらず、筋肉(相手)は、 「ふんぬあぁぁぁ!!!!!」 力いっぱい、筋肉を隆起させ、あきらかに強すぎるパワーで思いっきり叩いた。 いや、吹っ飛ばした、と言ったほうが適切だ。 力加減の誤ったボールは直線に飛んでいき、アウトになって俺の後ろのフェンスに突き刺さった。 「ア、アウト。」 審判が言う。 筋肉(相手)は悔しそうに 「なぜ入らないぃ!!!」 と、嘆いていた。 その異常な力のせいだ。 と誰もが思っていたに違いない。 こいつはサーブを除く全打をこのパワーショットで打っていた。 そのため、試合展開はものすごく早く、俺の圧勝で終わった。 俺は何もしていないが・・・・・・。 試合が終わり、座る俺に筋肉(相手)は近寄ってきた。 「いい試合だった。お互い互角の勝負だったな!!」 ・・・・・・・・・・・・互角・・・・・・だと? 暑さで頭がやられたのか? それとも脳まで筋肉で出来ているのか? ありえないことをほざいている。 そして例のごとく、握手を求めてきた。 「・・・・・・・・・・・・。」 俺は無視に徹底した。 うざったくも、筋肉(相手)は手を差し出したままだった。 「あの〜。審判やってくれますか?」 第三試合をやる選手が筋肉(相手)に声をかけた。 筋肉(相手)は溌剌と返事をし、審判に向かった。 汗をかいて歩く筋肉(審判)の姿は、ワセリンを塗りたくったボディービルダーのようだった。 *** 体育が終わり、4時間目が始まる。 世界史の授業は全科目中もっとも退屈だ。 他の教科なら当てられる可能性もあるから、ほんの少しだが緊張感がある。 しかし世界史は当てられることがない。 前の時間が体育だったもあって、大半が寝ている。 年寄りの教師が、ぼつぼつと聞き取りにくい声で歴史背景の説明をしている。 これを聞いている人間はどれだけいるのだろうか? チラッと篠川を見る。 成績のいい篠川ならまじめに授業をうけているだろう。 そう思って篠川を見た。 篠川の席は俺の席から遠くはない。 前に二列分、横に一列分、将棋の桂馬のような動きをした先にいる。 「!」 篠川は机に突っ伏して寝ていた。 寝顔がちょうどこっちを向いていて、こっちからよく見える。 口をあけ、気持ちよさそうに寝ていた。 下品によだれまで垂らして・・・・・・。 「・・・・・・。」 呆れた。 こんなにがよく学年二位の秀才だな。 なんかたたき起こしたい気分にさせる顔だった。 *** シーン4 *** 昼食。 もちろん屋上で。 しかし今日は一人ではなかった。 「おっ!その卵焼き美味そうだね〜!一個ちょうだい!!」 「ダメだ。てかなんでお前がいる?」 先週までいなかった篠川がなぜかいる。 食事の時まで付きまとわないで欲しい。 俺が屋上に着き、昼食を食べようとすると、 「待ったァ〜!!」 と言って来た。 もちろん俺は、待たずに食べ始めたが。 「いや〜。冬樹くん一人じゃ寂しいかな、て思って来てあげたんだよ〜。感謝しなさい!!」 「感謝する。だからさっさと帰ってくれ。」 思えばこいつはなんでまだ俺に付きまとってくる? 木村とか、他にいるだろう。 俺なんかといるより、ずっと楽しいはずだ。 それに土曜日に拒絶の意思は示したはずだ。 もっとも、違う捉え方をされたが・・・・・・。 「冷たいな〜。あっ!もしかして照れてるの?わかるよ〜、こんな可愛い美人な娘と一緒に誰もこないところで食事ができるなんてね〜!」 「・・・・・・そんなやつはどこにいるんだ?」 「わ た し で す !!」 いちいち疲れる。 食事ぐらい一人にさせてくれ。 静かに食べたい。 「でも冬樹くんのお弁当って本当においしそ〜だよね。品数多いし、バランスいいし・・・・・・。」 そうか? 比べたことないからわからないが、品数が多いのはわかる。 おかげで飽きることがない。 篠川の弁当は量も少なく、みすぼらしい。 手間のかかってないというか。時間がなく急いで作ったというか。 「ごちそ〜さま!」 一足早く篠川は食べ終え、袋に弁当箱を入れていく。 俺も食べ終わり、箱をしまう。 篠川は立ち上がり、スカートについた埃を軽く払うと、出口に向かった。 「どこにいくんだ?」 篠川振り返って、 「優子ちゃんの手伝い。まだ学校祭の準備が結構残ってるんだって。」 「ふ〜ん。」 「・・・・・・冷たいな〜。」 そして篠川は扉を開けた。 開けたとき、篠川はなにか呟いたみたいだった。 でもそれは聞こえなかった。 篠川は少し悲しそうな顔をしていた。 そんな気がした。 静かになった屋上。 誰も来ず、秋雨とは無縁な、九月の青空が広がっている。 薄く広がった雲。 ゆっくりと時間が流れるように、雲もゆっくりと流れていく。 風のない屋上は、本当に静かになった。 「・・・・・・はぁ。」 何に対してため息をしたのか自分でもわからない。 なんとなく出たのか。 それとも意味を持って出たのか。 それはわからなかった。 青空。 フェンスに囲まれた屋上。 騒がしい校舎。 時間だけが過ぎる。 *** シーン5 *** 「遠山、今日も頼めるか?」 「・・・・・・・ああ。」 放課後、学校祭の準備のため、今日と明日は授業が短縮されている。 本当にラストスパートをかけるためだ。 帰りたい気もするが、これも授業時間にやっているため帰るわけには行かない。 やることがないと思っていたが、土曜と同じく天野が声をかけてきた。 さすがに一人何もしないのでは、担任の目に付くしなにより浮く。 だが、クラスの連中にしたら俺が手伝いをしていることが既に『浮いた行動』らしい。 「遠山は、前の続きを頼む。」 天野は前と同じように刷毛を渡してきた。 俺の目の前には前回完成し損なった『敷』の文字。 ほとんど塗れておらず、塗ってある部分から刷毛を走らせる。 細かく入り組んだ場所は刷毛を立て、慎重に塗る。 赤い線がゆっくりと浮かんでいく。 大きな文字はだんだんと血文字風になっていく。 垂れた演出の部分もはみ出さず丁寧に。 「・・・・・・ふぅ。」 なんとかできた。 立ち上がってみると完璧に塗れていた。 他の文字もうまくいったようで、看板は完成した。 「天野、できたぞ。」 広告用の用紙を整理していた天野に声をかける。 「ご苦労様。いい出来だな。」 看板を見た天野は感心したようにうなった。 これで仕事は終わった。 少し休もう。 そう思って、廊下に出た。 廊下では、俺と同じように、仕事の終わった、もしくは休憩中の人がちらほらいた。 みな談笑していた。 「・・・・・・遠山くん?」 教室からは出てきたのは、木村だった。 「なんか用?」 視線だけ向けて対応する。 木村のグループは作業に追われてるんじゃなかったのか? 「ちょっと、頼みたいことがあるんだけど・・・・・・。」 なるほど、切羽詰っているから手伝って欲しいと。 だから呼びにきたのか。 返事を返し、教室に戻る。 「あの・・・・・・。これを頼みたいんだけど・・・・・・。」 木村が差し出してきたのは、さっき天野がまとめていた用紙だった。 それとセロハンテープが2個。 「これをどうするんだ?」 とりあえず受け取り、木村に聞く。 「窓とか、掲示板とかに貼って来て欲しいの。一人じゃ多いから誰かと一緒に・・・・・・。」 誰か・・・・・・。 誰と行こうか? *** (時間があったら選択肢別ルートを作ります。) 選択肢(仮 A・篠川 B・天野 C・木村 D・筋肉 下記は篠川ルートと筋肉ルート *** 筋肉ルート あの筋肉を・・・・・・。 いや、あいつは別のクラスだ。 ・・・・・・何を考えているんだ俺は。 選択肢に戻る。(Dを除いて) *** 篠川ルート 誘うといっても親しい人がいるわけでもない。 どうせ分担してやるんだから篠川でいいか。 「篠川さん。」 「ん?」 木村たちのグループで小道具を作っていた篠川を呼ぶ。 「あっ!ビラ配りね!手伝ってほしいの?」 「まぁそんなところだ。」 「うれしいね〜。冬樹くんからデェトのお誘いだなんて〜♪」 無視の方向で黙って用紙を渡す。 「あんたは1、2階な。俺は3階と4階をやってくる。」 「え〜。別行動ですか。」 「当たり前だ。効率が悪い。」 「はーい・・・・・・。」 (*以下共通*) 約半分用紙を渡し、教室の前で二手に分かれた。 俺らの教室は2階にあるため、2階分上がる。 4階は一年生のフロアだ。 屋上に行くため、4階には行き慣れているが、教室の方まで行くのは初めてだ。 やはり一年生も文化祭の準備に追われているようで、騒がしく人が動いていた。 見ると俺と同じように用紙を窓に貼り付けているやつもいた。 とりあえず、階段のところにある掲示板と、踊り場に1枚づつ・・・・・・。 それと2クラスに1枚あたりの間隔で貼っていけばいいな。 ・・・・・・・いや、3クラスに一枚にしておこう。 窓には先客の広告がびっしりと貼ってある。 どれもクラス企画のやつのようで、食物系が多い。 焼きそばやドリンク類は集客数が響くからな。 宣伝にも力が入っているようだ。 空いたスペースを見つけては、貼っていく。 意外と面倒な作業だが、楽といえば楽だ。 途中客引きに捕まりながらも、無視して仕事をこなしていく。 「・・・・・・4階はこれでいいな。」 反対側の階段から今通った廊下の窓を見る。 びっしりと貼られた広告は、目が痛くなるほど煌びやかだった。 半透明の紙で作られたものや原色をフルに活用して作ったものなどさまざまだ。 うちのクラスのもわりと派手だが、こうも他が強力過ぎると、見劣りしてしまっている。 広告の効果では客数は稼げそうにないな。 まぁその方が楽か。 確認した後、3階に下りる。 さっきと同じように階段脇の掲示板と踊り場の窓に貼り、3階に行く。 反対側から下りたため、着いたのは2年側だった。 3階は1年と2年のフロアで、1年が1クラス、2年が4クラスある。 一番端には一年のクラスが見える。 遠いな・・・・・・。 やることはさっきと同じだ。 順々に貼っていこう。 *** Dルートを一度選んだ場合のみ。 *** 2年3組の前に広告を貼る。 それにしてもこのクラスは、他と比べてやけに慌ただしいな。 準備が全然出来ていないのか? 窓も開いてるし、覗いてみるか。 中は他クラスと変わりなく、それぞれのグループに分かれて作業をしていた。 忙しそうにやっているのはみな同じようだったが、ただ一人・・・・・・。 いや、忙しそうにやっているのにはかわらないのだが・・・・・・。 「ふん!!ふんっ!!ふんっ!!ふんっ!!」 例の筋肉(生徒)が、鼻息を荒立てながら教室の隅で、しかも上半身裸で腕立てふせをやっていた。 誰も気にしないのか、冷ややかな視線は送るものの、作業に集中していた。 「ふんっ!!ふんっ!!ふんっ!!ふんっ!!」 筋肉(筋トレ中)の鼻息遣いが妙に響いていた。 「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんんんんん!!!!!!」 ラストスパートをかけるように一気にペースが上がっていく。 同時に鼻息も早くなる。 「ふんんんんんんんっ!!!!」 ・・・・・・・・・・・・。 行こう。 *** 共通ルート *** やはり窓にはたくさんの広告が貼ってある。 量的にはさっきより多いかもしれない。 貼る場所がないので、見にくいが上のほうや、下の壁、柱などに貼っていく。 このフロアはどうやらアトラクション系が多いみたいだな。 参加する気はないが。 貼り終えて、教室の前に戻ってくる。 用紙はまだ5枚ほど残っている。 2階の廊下は**(選択した人)の担当だ。 仕方ない、あきらめて教室に入ろう。 *** 篠川ルート *** 教室に入ると既に片付けが始まっていた。 どうやら小道具などは準備が完了したらしい。 お化け屋敷というもののため、舞台をセットするのが一番時間がかかる。 教室を真っ暗にし、コースを作るため机や椅子を並べるためだ。 「あっ!冬樹くんお疲れ〜!」 一足早く終わっていたらしい篠川が、木村たちと片付けを手伝っていた。 「ちゃんと貼れた〜?」 「いやどこも満杯だった。5枚ほど余った。」 篠川はやっぱりという顔をしていた。 「行動するのが遅かったかな。私も余っちゃったよ。」 どうやら篠川のほうもあまり貼れなかったらしい。 広告用紙は散らばって置いてあった。 「また明日も貼りに行かなきゃね。」 「・・・・・・そうだな。」 その間に片付けは終わったみたいで、担任教師がみんなを集め、明日の連絡をした。 明日は午前中は授業で、午後は学校祭の準備らしい。 半日で帰りたい。 この後に居残りの作業はなく、みなそれぞれ散っていく。 帰りの支度を済ませ、教室をでた。 廊下はまだうるさく、他クラスは作業をしていた。 篠川は吹奏楽部で練習があるらしく、一人早く出て行ってしまっていた。 一人で帰路に着く。 なんとなく、静かだ。 季節は秋。 なのに蝉は鳴き、葉は赤づく。 短い帰宅路。 交通量も少なく、立ち止まることなく家についてしまう。 「明後日は、学校祭か・・・・・・。」 考える必要なんてないか。 去年と同じように図書室で篭っているだろう。 玄関を開けると、冷気が漂ってきた。 *** ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 9月12日(火) --------------------------------------- *** シーン1 *** 今日の授業は授業にはなってなかった。 さすがに明日に学校の一大イベントを控えているせいか、教師連中も『語り』が多かった。 大して身にならない授業が続き、ボーと過ごしているうちに昼放課になっていた。 *** で、俺は今屋上にいる。 もちろん昼飯のためだが、今日も普段と勝手が違っていた。 「・・・・・・ほんっと、おいしそうなお弁当だよね〜。」 「・・・・・・。」 またもや篠川がいる。 箸を近づけてくるのを弁当を遠ざけて守る。 「けち〜。」 「自分のを食え。」 「う〜。」 なんでまたこいつに俺は付きまとわれているんだ? 無視に徹底しようにも余計に気が散る。 なんというか、ありえないくらい存在感のあるやつだ。 「冬樹くん・・・・・・。午後はどうする?」 午後・・・・・・つまりは学校祭の準備だ。 昨日で看板は仕上がってしまっているから、広告貼りくらいしか仕事がない。 舞台の設営でも手伝うか? 「・・・・・・わかんねぇ。」 そう答えると篠川は、ハァ・・・・とため息をついた。 「いつまでもお姉さんに頼っちゃダメだよ冬樹くん。」 「頼ってねェし、篠川に頼りたくもない。」 すると篠川はきょとんとした顔になった。 「・・・・・・どうした?」 俺が声をかけてやると、篠川ははっと我に返った。 「いや、冬樹くんに呼び捨てされたからさ。ちょっとびっくりしちゃって・・・・・・。」 「そんなことでびっくりするなよ。」 いちいちわけのわかんないやつだ。 「・・・・・・と、とりあえず、冬樹くんはたぶん衣装あわせと、リハーサルがあるからね。終わりのほうは忙しいと思うよ。」 なるほど。 よくよく考えてみれば自分は当日も働くんだった。 当日、切り盛りするのはたしか6人程度だったからリハーサルがあるのか。 当日失敗をして恥をかかないためにも聞いておく必要が・・・・・・。 面倒だな。 「じゃあ、教室内が完成するまでは暇なのか?」 「うん。優子ちゃんたちも小道具はだいたい作り終わったし、コースや内装の人たちは他に係りがいるからね。私もビラ貼りくらいしか仕事がないの。」 「ふ〜ん・・・・・・。」 どうやら一時間ぐらいは暇になりそうだ。 第一、どのように作るか知らない俺が手伝えることは少ないだろう。 あの篠川も暇をするってことは本当に仕事は終わっているのだろう。 「広告は後は下駄箱と別館、それに部室棟だね。」 別館とは、職員室や教科室などがある棟で、特別授業(実験など)に使用される棟だ。 学校祭当日は、主に文化部が発表の場として使う。 「普段は人の出入りは少ないけど、今日は、部活ごとの出し物の準備で結構別館にも人がいるから良い宣伝になると思うよ。」 なるほど、絶好の穴場という訳だ。人の出入りは少ないが、広告は貼る上では穴場とも言える。 「今日は、部活ごとの出し物の準備でけっこう別館にも人がいるから良い宣伝になると思うよ。」「あと部室棟はどうする?貼る場所なんてあるのか?」 それに部室棟は校舎から離れた場所にあるため、学校祭当日はおそらくほとんど人が来ないだろう。 しかも今日はほとんどの部活が休みのため、広告の効果は期待できない。 「う〜ん。やっぱ部室棟はいいかな。人がこなさそうだし。」 部室棟はやらない。別館を中心に・・・・・・。 あれ? 「篠川、さっき下駄箱とか言ってなかったか?」 「うん。言ったよ。」 「・・・・・・昨日、貼らなかったのか?」 「うん。」 「・・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・・・・・・・。」 「・・・・・・はぁ。」 下駄箱は一番人が来るのにこいつは何をやってるんだ? こいつに頼んだ俺が馬鹿だったのか? 「い、いや!忘れていたわけじゃないよ!」 あせったような顔で苦しい言い訳をする篠川。 忘れていたわけじゃないならなぜだ? 確信犯でやっていたのなら、相当性質が悪いぞ。 「じゃあなんで?」 ここは問い詰めてみる。 篠川を試してみよう。 「え〜と、その・・・・・・、えっと・・・・・・・。ご、ごめんなさい!忘れてました!」 言い訳なし。 3秒自首ノックアウト。 試す価値なかったな。 「私としたことが、下駄箱というベストプレイスを忘れていたなんて・・・・・・。」 「・・・・・・まったく。」 「ぷっ!」 「?」 「あっはっはっはっはっは!!!!」 「!?」 いきなり篠川は笑い出した。 なにが可笑しかったのか? なにがツボだったのかはわからないが、篠川は笑っている。 「冬樹くん、いつのまにか学校祭を楽しみにしてるね!」 「はぁ?」 楽しみにしている? 誰もそんなこと言ってないぞ。 第一、学校祭当日は去年と同じように図書室にいようと思っているしな。 「だって、こんなに考えてるじゃん!学校祭のこと!!前だったら『めんどくさい』とか言ってサボっていたのに!!」 「・・・・・・・・・・・・。」 *** 昼放課が終わり、担任教師の指示で明日に迫った学校祭の準備にとりかかる。 俺はまた広告貼りをすることになった。 教室のある本館は篠川に任せて、俺は別館に行くことにした。 職員室前にはすでに多くの広告がある。 学校祭のものもあるが、多くは『○○防止』とか『××コンテスト』とか、情報や防止ポスターが多い。 そもそも職員室に行く機会なんてほとんどないのになぜこんなにも貼ってあるんだろうか? 隙間を見つけては貼る。 渡された枚数は少ないため、別館だけで俺の分は終わりそうだ。 しかし、俺は昨日ほどこの仕事に乗り気にはなれなかった。 篠川は『学校祭を楽しみにしている。』と俺を分析した。 思い返せばそうかもしれない。 まわりが気になるほど、俺は与えられた仕事を熱心にやっていた。 看板を塗るときも、この広告貼りも。 めんどくさいとか、そんなことを心の中で思っていても、内容、そして結果は違っていた。 やりがいがある。 忘れていた達成感がある。 篠川が言ったような、逃げた自分がいない。 だが、そんな気持ちは俺を苦しめてもいた。 かつての自分を否定した行動なんだ。 今までの自分なら、今は屋上に逃げている。 くだらない、とか思いながら何もせずにいた。 今も昔も、クールなのが、一匹狼なのがカッコいいとかは思っていないし、考えもしない。 ただ漠然と、俺はあいつらとは違う。 ここにいるべき人間じゃない。 そんな風に思っていたんだ。 しかし今、この現在。 かつての俺から言わせる、下等な連中の言うことを素直に聞いてそれをこなしている。 一年前は、先週まではありえなかったのに。 それを・・・・・・。 たった数日で変えられてしまった。 それが良いことなのか、悪いことなのか、俺には判断できない。 わかるのは、俺は、かつての俺は俺を見下している。 俺も、あいつらと同じ『下等な連中』だと。 「・・・・・・くそ・・・・・・・・・・・・。」 目に入ったゴミ箱に、広告を捨てた。 *** 6時間目が始まった。 俺は屋上にいた。 広告を捨てた後、俺は屋上に向かっていた。 わかったんだ。 俺は、かつての俺にあこがれていることを。 そして戻れることを。 いままで築きあげていた孤独の日々を、俺はまた望んでいるんだ。 本当の俺は馴れ合いなんか好きじゃなくて、あんな奴らとつるむべき人間じゃないんだ。 もういい。 たとえ教師連中に説教をくらわさせようとも、下等な連中から白い目で見られようとも、別に構わない。 俺は俺を通す。 篠川とか言うやつに変えられた日々を戻すため。 それを篠川に気付かされたのは本当に不服だ。 俺のあるべき姿を変え、俺のあるべき姿に戻した。 本当にあいつには頭にくる。 いままであいつに対して怒りを感じてなかった過去の俺が不思議でたまらない。 この怒りが治まったら俺はいつもの俺に戻っているだろう。 下等なやつに、怒りを感じているなんて馬鹿げている。 制服が汚れるのも気にせず、俺は仰向けに寝る。 少し曇りがかった空。 雨が降ることはないだろうが、この調子が続けば明日は雨かもしれない。 明日雨になれば、学校祭は盛り上がらないものになる。 外の出し物は全て中止。 じめじめとした室内で、迫力に欠ける出し物をまわる。 そういえばもう今ごろは教室の準備は大体終わってリハーサルでもやっているだろう。 別に良い。 明日は休むことに決めた。 俺がいなくたって、誰かが代役する。 リハーサルにすら来ていないやつに、やらせはしない。 終礼のチャイムが鳴るまで、ここにいよう。 鳴ったら教室に戻り、荷物を持って帰るだけだ。 屋上には誰も来ない。 と、言うより誰も入れないようにした。 もともと鍵が壊れていた誰もが入れる屋上だが、扉のところに出っ張りがある。 そこに落ちていた箒をかけた。 すると扉は開かなくなった。 もちろん箒を外せば開くのだが、俺以外誰も来て欲しくない。 仰向けになっていると、眠気がくる。 屋上で寝るなんて初めてだ。 気温は最適。 夜になったら冷えるかもな。 風は少ししかなく、環境は快適だ。 眠気が強くなってくる。 瞼が下がってきた。 *** 終礼が鳴っても、俺は起きなかった。 はっと目が覚めると、辺りは赤かった既に夕方になっていた。 携帯電話を取り出して時間を見てみると、5時半をとっくに過ぎている。 俺は3時間も寝ていたらしい。 そんなに疲れていたのか。 確かに疲れることはしていた。 起き上がって、服についた砂埃を掃う。 グラウンドを見渡すと部活をやっていたり、まだ準備をしているところもあった。 しかしどれも片付けのようで、あと10分もすればみな帰宅しているだろう。 俺の教室はとっくに終わって、もう帰っているだろう。 秋風が少し寒くなる。 これ以上この場所にいたら風邪を引いてしまう。 というか、こんな場所で寝ていて風邪を引かない自分に驚きだ。 元来体は丈夫な方だが。 扉を見ると、箒が外れていた。 一瞬誰か来たのかと思うが、箒がそのまま扉の前で落ちている。 誰かが来たなら、箒をどかすはずだ。 こんな邪魔になるところにあるんだからな。 ドアノブに手をかける。 *** 夕焼けに写るその姿を見て、俺は一瞬言葉を失った。 いや、言葉を失ったというのはおかしい。 俺はもともとしゃべってはいない。 とにかく、俺は驚いていた。 あまりに小さい背中。 細い体。 白い制服は俺の背後から差し込む夕日で橙色になっている。 「おはよう・・・・・・かな?」 屋上に続く階段の最上部に、篠川は座っていた。 何のために? わかっている。 俺を待っていたから。 何故? ・・・・・・わかるわけもなかった。 「なんで・・・・・・いるんだ?」 俺は立ち尽くしたままだった。 篠川は座ったままだった。 見下すように、 見上げるように、 一定の距離と、一定の隔てを持ちながら。 「なんでって、一緒に帰ろうと思っただけだよ。」 一緒に帰ろうと思っただけ。 篠川はあたかも当然のようにそう言ってのけた。 「ほら、扉が開かなかったからし、終礼が鳴ってもこなかったから、ここで待ってたんだよ。」 「・・・・・・・・・・・・。」 なんで・・・・・・ なんでこいつはこんなにも執拗に俺に付きまとう? なんでこんなにも俺に干渉する? なんで・・・・・・。 「なんで、待つ必要があるんだよ・・・・・・。」 「友達だもん。」 「・・・・・・友達?」 俺が? 篠川は何を・・・・・・。 「そんな、重く受け止めないでね。私は冬樹くんを待ちたかったから待っただけ。一緒に帰りたかったから待っただけなんだからね。」 たったそれだけ。 本当に深い意味はない。 待ちたかったから待っただけ。 気まぐれのように、当然のように。 篠川は言い放った。 「俺は、篠川の友人なんかじゃない。」 「うん。でも私は友達だと思っている。」 「だから・・・・・・。」 「いいの。単に捉え方の違いだから。」 篠川は冷静だった。 冷たく引き離し、軽蔑するようなこともせず、 馴れ馴れしく喋り続けたりもしない。 一定の関係、間隔を保ちながら、思ったことを話しているに過ぎない。 「じゃ、私は行くね。冬樹くん、私と帰りたくないみたいだし。」 その一言の後、均衡状態にあったその間は姿を変える。 そしてすぐにどんどん距離が開いていく。 「・・・・・・・・・・・・ごめんね。」 篠川は最後にそう呟いて、足早に階段を駆け下りていった。 「・・・・・・。」 追えない。 開いたままだったドアからは冷たすぎる空気が吹く。 服と、髪を揺らして。 立ち尽くしたままだった。 動くことができなかった。 俺の中で、ただ最後の一言、 篠川が呟いた言葉だけが響く。 放送が鳴り、いよいよ学校が閉まるときまで、俺はそこにいた。 一定の、その距離を変えることなく。 *** ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 9月13日(水) --------------------------------------- *** その日は晴れていた。 朝の天気予報では日が落ちるころに小雨が降るそうだ。 だがそれは支障にはならない。今日行われるイベント学校祭は降りだす前には終了するだろう。 行かないはずだった。 だが、妙に、篠川が気になる。 あの行動の理由が。 あの言動の理由が。 あの・・・・・・表情が。 篠川は学校祭の異常なほど固執していた。 俺との関わりも、この学校祭を中心にして。 それは興味本位に近かったかもしれない。 でも俺は知りたい。 なぜ篠川は・・・・・・・・・・・・。 *** 学校に着いたとき、偶然にも昇降口に天野がいた。 まじめなやつが、こんな時間にいるなんて珍しい。 「遠山か。おはよう。」 相変わらずな態度。 覇気も何も感じない口調。 「おはよう。遅いな。」 少し天野が遅く来ていることに興味が湧いた。 俺は追及をしてみる。 「ああ。今日は学校祭だろ?高校生にもなって楽しみで眠れなくてな。」 「・・・・・・・・・・・・そ、そうか。」 マジで言ってるのか? 本人の表情は大して変わってないが、どことなく恥じらいを感じる。 どうやら本当のようだ。 「そういえば遠山。お前、昨日は何処に行っていた?」 何処に? 何を言っている? 俺が行くところといえば屋上しかないのにな。 「さぼっていた。屋上でな。」 ここは正直に答えてみよう。 「そうか。リハーサルを受けてないから、同じ役割のやつに聞いておいたほうがいいぞ。」 天野は助言のようなことを言うと、教室に向かっていった。 「・・・・・・・・・・・・。」 とがめることはなかった。 あいつはそれが当然だった。 篠川のように、読めない。 いや、俺は・・・・・・。 *** 「「第33回!!桜山高校(仮)学校祭!!題して『秋風祭(あきかぜさい(仮))を始めます!!!」」 張りのある声がマイクを通し、拡声器を伝い、スピーカーから響く。 生徒会長その他が、放送を使っていろんなことを言っていく。 学校祭の諸注意。 スケジュール。 校長の話。 各クラスの宣伝。 部活動発表の知らせ。 丁寧かつ簡潔に、詰まることなく話していく生徒会長の舌には驚く。 よくもこんなに手際よく言えるものだと。 スケジュールでは、9時半よりスタート。5時には片づけを開始し、日が落ちた6時に後夜祭というもの。 各クラスは主に自分たちのクラスを使いながら、グラウンド、中庭などを利用してそれぞれの出し物をしていく。 別館では、文化部の展示が中心となる。 視聴覚室では文芸部の冊子配布。 美術室では美術部、イラスト同好会の展示と配布。 廊下には写真部の展示があったりと、地味だ。 体育館では、主にライブ系をやるらしい。 篠川たち吹奏楽部の演奏や、合唱部、演劇部の公演。 さらに有志によるバンドやコントなど・・・・・・。 びっしりと繰り込まれている。 俺はどうやら9時半から11時までの担当らしい。 まぁ、途中で入るよりも楽でいいか。 すっかりコースの組まれた教室ではなく、廊下で待機をしていた。 周りを見渡せば他のクラスは最後のセッティングに急いでいた。 当のうちのクラスも内装担当が今、最終チェックをしている。 「あ、あの・・・・・・。」 突っ立って見ていると、木村が声をかけてきた。 腕に抱えるようにして黒い布を持っている。 「これ、遠山君の衣装。たぶんサイズは合ってると思うけど・・・・・・。」 渡された布は衣装らしい。 広げて見てみると、フードの付いたローブのようなものだった。 前にはボタンがついていて、中の服が見えないように配慮されている。 肩に合わせてみると、そのすそはぴったり足先に届いた。 「ちょうどいいみたいね。よかった。保健室に忍び込んだ甲斐があったよ。」 ・・・・・・・・・・・・。 保健室に忍び込んだ? 俺の身長を、そんなことをして調べたのか・・・・・・。 「あ、あとこれ・・・・・・。」 もう一つ渡せれたのは、仮面だった。 なんという名前の映画か忘れたが、ホラーものの映画のキャラクターの仮面だ。 ムンクの叫びのような顔をしている。 「最終リハをするから、遠山は中に入ってくれるか?」 内装を手伝っていた天野が、教室から顔を出す。 俺は衣装を持って中に入った。 *** 中は電気が点いていて明るく、逆に消してしまえば真っ暗になるだろう。 狭く作られたコースを他のやつに案内され、一つの場所につれてこられた。 「遠山君は、ここから飛び出してくれ。」 黒い幕にはスリットが入っており、出入りができるようになっている。 明るくないと分からないだろう。 俺の持ち場はコース中盤。 ちょうど曲がり角に位置し、まわってくる客からは見えない位置にある。 つまり曲がった瞬間に急に飛び出すというもの。 暗闇からこんな仮面をつけたものが飛び出してきたら、さすがに驚くだろう。 よくこんなのが考えつくものだ。 「じゃあ、中に入って、確認でもしてくれ。」 案内役は俺を置いてさっさと出て行ってしまった。 まあいい。 俺は渡された衣装を着てみる。 「・・・・・・・・・・・・。」 サイズは確かにぴったりだ。 寸分の狂いはさすがにあるが、なかなか着心地は良い。 ただ、暑い。 まだ残暑の日々に、さらにこんなに晴れた日だ。 教室は閉め切っているため、さらに暑くなる。 「そろそろ開園だから、みんなよろしくな!」 天野の声が響く。 オー、と返事をする中、俺は黙っていた。 別に仕事をする必要もないんじゃないのか。 このまま飛び出ることなく座っていれば楽だろう。 ぷち、といって電気が消える。 やれやれ。 仕方ないが、俺は仮面をつける。 もともとやる気はない。 だが、ここまで来てしまってまったくサボるのもなんとも言いがたい。 昨日の考えと、まったく一転している。 昨日は休む気だった。 一昨日は少しだけ、やる気というものがあった。 一転二転を繰り返している。 それも、篠川のせいだ。 仕事が終わったら問いただそう。 俺は理由を聞くためだけにこの場に来たんだ。 多少の不利益も、プライドを捨てることも覚悟して。 「「では!!各出し物を始めてください!!」」 開始の放送が入った。 次の瞬間には静かだった教室にも聞こえるほど騒がしくなる。 さて、面倒な1時間半が始まった。 以下未執筆 *** アトラクションシーン *** ライブ・・・・・アライブ *** 後夜祭 *** ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 9月14日(木) --------------------------------------- *** ノーマルエンド 中略(学校で木村優子から篠川の転校を聞き、急いで自宅に戻り、自転車に乗って駅に向かうまで *** 「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・。」 こんなに全力で自転車をこぐのは久しぶりかもしれない。 いや、誰かのためにこぐのは初めてだ。 「ちくしょう・・・・・・。間に合えよ・・・・・・。」 朝だけに交通量は多いものの、歩行者が少ないのが幸いか。 ささいな信号待ちでさえ、俺をいらだたせる。 「勝手に自己完結するなっていったのはお前だろ篠川・・・・・・!!」 文句とも愚痴でもある篠川への台詞を言いながら、ひたすら駅に向かって飛ばす。 大通りになり、巨大な駅が見えてくる。 木村の話が正しければ、篠川は8時15分発の電車に乗っていってしまう。 駅まであと200メートル手前と書かれた看板のある信号で止まり、俺は携帯電話を取り出して時間を確認する。 「7時58分・・・・・・。」 まだ15分あるが、新幹線に乗るためそうホームには待っていないだろう。 待合室にいるときに会わなければ、もう会うことはない。 寂しいから会いたい・・・・・・とか、好きだから会いたい・・・・・・とか、そんな気の利いた感情はあいにく持ちあわせていない。 ただ、「さよなら、元気でな。」とかそんな一言を送りたいだけだ。 あいつが変えてくれた一週間。 俺の人生観を変えてくれた―――親友。 別れ姿を見せないほうがかっこいいとか、あいつは言いそうだ。 だが俺にとっては知ったことじゃない。 「間に合え・・・・・・!」 駅の大時計は8時5分を指していた。 俺は駅の階段を駆け上がる。 *** 篠川サイド *** 私は駅の待合室で遅めの朝食を食べていた。 売店で買った焼きそばパンとメロンパン、それにパックのコーヒー牛乳。 待合室には今から出張という感じのサラリーマンが多く、少しタバコ臭い。 朝っぱらから女子高校生がこんなところで朝ご飯を食べているのが珍しいのか、視線が少しきつかった。 私のわがままで転校を少しだけ延期してもらっていたから、ここ数日は一人暮らし気分だった。 お母さんは日曜日までいたけど、月曜からは新天地の大阪に行ってしまっている。 だから私は一人でご飯を食べている。 「ふぅ…・・・。」 掛けられた時計を見ると7時58分。 出発まであと17分。 大阪行き8時15分発。 見送りは誰もいない。 優子ちゃんには、転校することを伝えてあるけど出発時間までは言ってなかった。 もし言って、見送りに来ていたら、私はたぶん泣いてしまう。 携帯電話を開く。 アドレス帳には、昨日教えてもらった冬樹くんの名前が入っている。 「・・・・・・結局、言えなかったなぁ。」 唯一とまではいかない。 心残りには贅沢すぎる。悩み。 最初に目標はちゃんと達成できたし、私ができることは全部したつもり。 最後の悩みは単なる私の私情で、冬樹くんにはあんまり関係ない。 「・・・・・・ハァ。」 ため息が出る。 寂しい別れなんだから、私だって少しぐらいネガティブになってもいいよね? もうたぶん、会わない相手。 お互いの番号を知っていても、連絡を取ることは少ないと思う。 そんなことを考えながら時計を見ると8時5分になったいた。 「〜線にひかり××号が到着いたしました。名古屋、大阪、京都行きの方は・・・・・・。」 そのとき待合室にアナウンスが流れる。 私の乗る新幹線がホームに到着したらしい。 周りの人たちも荷物を持ち上げ、乗り口へと向かい始めている。 「・・・・・・さてっと。」 私も行こう。 ここに長くいるとヘンな期待を持ってしまいそう。 ゴミをゴミ箱に入れて、荷物を持ち上げる。 *** 冬樹サイド *** 入場券を買い、短い距離であるけれど待合室まで走る。 まだ人がちらほらいるようだったが、乗り口のほうを見ると階段を下りている人のほうが多い。 電光掲示板には「大阪行き8時15分発 着」と表示されている。 さすがにこんななかで叫んで探すわけにもいかず、とりあえず待合室とドアを開ける。 「・・・・・・・・・・・・篠川は、いないみたいだな。」 小さめな部屋の中に、篠川らしき人はいなかった。 と、なると既にホームに向かっている可能性が高い。 汗だくながらも、走る。 掛けられた時計は、8時8分だった。 *** ホームに着くと人が多かった。 大阪行きの新幹線は既に来ているようで、乗り込む人が多い。 だがまだ乗らずにベンチで座っている人もいる。 俺は駆け足で探す。 まだ篠川が乗っていないことを祈って。 *** 中略(学校祭の回想、篠川サイドで なんでいま学校祭のことを思い出したんだろうと思う。 やっぱり気になっているらしい。 ・・・・・・ジュースでも買って、気を紛らわそう。 発車まであと5分。 私は一時的に新幹線を下りる。 *** 冬樹サイド *** それは偶然に近かった。 いや、まったくの偶然だ。 篠川が、おそらく自動販売機にでも行こうと新幹線を下りたところだろう。 財布だけを持った篠川は息を切らし、汗だくの俺を、ただ呆然と見つめていた。 「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・。勝手に消えるなよ。」 それが疲れた俺から出た、第一声の本音だった。 「俺に・・・・・・、散々付きまとっといて、自分は勝手にどっかに行っちまうの・・・・・・かよ。」 たえだえに言う俺の声は聞き取りにくかっただろう。 乾いたのどが張り付いて、うまく声が出せなかった。 「・・・・・・ごめん。」 篠川はやっと声を出した。 俯いて、泣きそうな声。 でも俺には、うれしさを隠し切れない声だとわかっていた。 「ハァ・・・・・・。転校、するんだろ?」 「・・・・・・うん。」 二人そのままの姿勢、詰め寄ることも、移動することも、ましてや離れることもなく、だだこの間隔を保ったまま。 「そうか。じゃ、元気でな。」 「えっ・・・・・・。」 俯いていた篠川が顔を上げた。 瞳にはうっすらと涙がたまっている。 それを隠すために俯いていただろうに。俺の一言があまりに意外だったらしい。 「なんだよ。なんかあるのか?」 あるだろう。 ただそれは言わない。 俺だって、考えはつかないだろうけど、まだまだ言いたいことはある。 時間が許さないし、一番言いたかったことは言えた。 悔いはない。 「冬樹くん。怒ってない?」 どうやら第一声が怒っていたように聞こえていたらしい。 皮肉はこめたが、怒ってなどいない。 「どうして?・・・・・・俺は友人の見送りに来ただけだぜ?」 「・・・・・・そう、なんだ。」 そう。 そうなのだ。 俺は見送りに来ただけ。 最後のに篠川に会いに来た。 それだけなんだ。 間が続かない。 沈黙が続いていると、時間が着てしまう。 「どうした?・・・・・・まさか寂しくて泣いていたのか?」 その一言を言うと篠川はハッと気づいたように涙を拭く。 「そ、そんなわけ・・・・・・、ない。たぶん。」 つくづく嘘が下手なやつだ。 隠し事は上手いのにな。 「ほら。見送りに着てやった友人に言うことはないのか?」 すると膠着状態だった距離が動く。 篠川と俺の距離は、・・・・・・遠ざかった。 ピッ。 ガコン。 篠川は炭酸飲料を買った。 そして開け、一気に飲み干すようにグイッと飲む。 「ぶっ!!・・・・・・ゲホッ!ゲホッ!」 当然の結果が待っていた。 そりゃ炭酸を一気飲みすれば誰だってむせる。 最後まで来て、行動の読めないやつだ。 「はい!」 篠川は急にその一気飲みを失敗した缶を俺に差し出した。 意味がわからない。 「そんなに汗だくになって、のど渇いたでしょ?私のおごりだ。飲め。」 「いや、意味わかんないから。」 が、なんとなく気に押されて、とりあえず受け取る。 「・・・・・・ありがとね。」 よくわからないが、篠川はなにか達成感があるような、そんな笑顔だった。 「ほんとはすっごくうれしい。誰も来ないって思っていたし、そうなるようにしてたし。」 「篠川。」 ドラマならこんなシーンなら俺は篠川を抱きしめていただろう。 少しだけ体重が前にかかった足を見ると、そうしようとしていたのかもしれない。 理性で抑える。 『8時15分大阪行き〜〜・・・・・・』 「「あっ。」」 アナウンスが流れる。 時間が着てしまった。 猶予はもうない。 「はやく乗れよ篠川。」 「う、うん・・・・・・。」 篠川の肩を押して、新幹線の中に入れる。 ホームと車内。 短くて遠い、はっきりとした境界線。 数十秒後には、目の前にいる篠川はいなくなる。 「元気でな。」 二回目の台詞。 伝えたい言葉。 「そっちもね、冬樹くん。」 もう普段の篠川、俺の知る篠川だった。 「あんたなら、どこでも上手くやっていけるさ。」 そう、俺を変えたように。 篠川なら大丈夫だ。 不思議と確信がある。 「冬樹くんもね。みんなと仲良くね。」 「・・・・・・わかってる。」 ぷるるるるるる。 コールが鳴る。 いよいよ別れのとき。 「じゃあな。」 俺は一歩下がる。 「うん。また会えるといいね。」 「そうだな。」 「そのときは・・・・・・・・・・・・ *** 間 *** 篠川が転校してから、はや半年が経っていた。 三年になった俺は、今までのようにふてくされてはいなかった。 四月のうちにクラスの連中とも打ち解け、同じ進路を目指す連中と一緒にいることが多くなった。 篠川がいなくなったためか、テストで張り合える人はいなくなったものの、よく勉強を教えることが多い。 木村はよく篠川と連絡を取っているようで、たまにいま篠川がどうしているか伝えてくる。 篠川自身は俺にはあまり連絡をよこさなかったが、一度火が点いたときにはやばかった。 あの人を無視してしゃべるのはまだまだ健在だった。 三年の学校祭はわりと楽しめた。 仲間と一緒に回って、あのころには考えもしなかった環境の変化。 三度目の学校祭の日に篠川に電話をした。 あいつはうらやましそうに聞いていただろう。 そして今度の土曜日は篠川の学校が学校祭らしい。 土曜日には思っていたように篠川からの電話があった。 そして次の日から、篠川との連絡はなくなった。 木村でさえないという。 木村は、「たぶん受験勉強に集中するため。」とか言っていた。 時期的にはそうだろう。 それ以来、俺も篠川のことを気にする日は少なくなっていった。 *** 3月1日 国立の大学の受験を終え、今日は卒業式。 この卒業式が終わったら、篠川に電話をしてみようと思う。 ずっと気になっていたことが二つ。 一つは、どうして俺にこんなことをしたのか? 最後の最後まで理由を聞けず、電話での話題に出ることもなかった。 二つ目は別れた日、篠川の言った言葉。 遠ざかっていった篠川が言った言葉がなんだったのか。 妙に気になっていた。 それらを確かめてみようと思う。 卒業式は集中できなかった。 流れるあおげば尊しも、俺には気にすらならなかった。 卒業式が終わり、家に帰った俺はすぐに携帯電話を取り出し、コールした。 「あ、・・・・・・篠川か?」 半年振りに聞いた声は、あの時と変わってなかった。 「ちょっと聞きたかったことがあるんだけど・・・・・・。」 そしてもう一つ、言いたかったことが・・・・・・・・・・・・。 normal end ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ クリア後追加シナリオ(春菜中学時代編) --------------------------------------- 未執筆 --------------------------------------- 一応念の為 --------------------------------------- 関係者じゃないのに誤ってこのサイトに来てしまった方、 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